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学会レポート─2026年欧州心臓病学会(ESC))[J-CLEAR通信(191)]

登録日: 2026.11.03 最終更新日: 2026.11.03

宇津貴史 (医学レポーター/J-CLEAR会員)

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8月28日から4日間、ミュンヘン(ドイツ)にて欧州心臓病学会(ESC)学術集会が開催された。参加者数は医療従事者だけで170カ国からおよそ3万4000人(報道陣も約350人)、セッション数は1750以上というメガ集会である。ここではそれらの中から、日々の臨床に近く、かつ注意深い解釈が必要と思われる演題を中心に紹介したい。

TOPIC 1
「スタチン開始で恩恵を受ける70歳以上のCV疾患1次予防例」はどれほど存在?:RCT“STAREE”詳報

まず注目したいのが、ランダム化比較試験(RCT)STAREEである。モナッシュ大学(豪州)のSophia Zoungas氏が報告した。70歳以上の心血管系(CV)疾患1次予防例におけるスタチン開始の有用性を検討した試験だが、その結果をどのように臨床に反映させるのか。この点については議論があるようだ。発表時の評価、また報告では言及されなかった「患者背景」も含めて紹介したい。

STAREEの対象は、70歳以上で自立した生活を送り、かつ日常生活動作(ADL)障害は「なし」か「軽度」(Katzスケール≧5)[J Am Heart Assoc. 2024]、加えて「CV疾患既往」や「糖尿病既往」、さらに「認知症既往・認知機能低下」を認めない、豪州在住の9971例である。

「認知症既往」例だけでなく「認知機能低下疑い」(3MSスコア<78/100)例も参加は不可だった。さらに、ランダム化前1カ月間のプラセボ導入期間に「服薬アドヒアランス」不良だった例も除外された(“Ask the Trialists”セッションにおけるZoungas氏発言)。なお、スタチンを含む脂質低下薬使用例やスタチンの適応となる疾患を持つ例も参加は不可だった。

これらをクリアした9971例は、スタチン群(アトルバスタチン40mg/日)とプラセボ群にランダム化割りつけされ、二重盲検法で観察された。年齢は「70~74歳」が6割を占めた。「80歳以上」は15%弱である。LDL-C平均値は、127mg/dL(全例脂質低下薬非使用)。血圧は平均136/80mmHgだった(降圧薬服用率46%)。
高齢者で問題となる「ポリファーマシー」の状況はどうだったか。

「試験開始時、最も多く服用されていた」(Zoungas氏)「降圧薬」でも服用率は先述の通り46%。次に多い「制酸薬」が27%。「鎮痛薬」と「抗凝固薬」はそれぞれ21%と15%だった。なお、「5剤以上服用」例の割合は20%である[J Am Heart Assoc. 2024]。「この集団にはフレイル例や多疾患合併例、超高齢者が十分に含まれていない」と、指定討論者であるジュネーブ大学(スイス)のFrançois Mach氏は評した。さらに「ポリファーマシー例」「服薬アドヒアランス不良例」も加えるべきではないか。

さて結果である。

5.9年間(中央値)の観察後、スタチン開始は患者にどれほどのメリットをもたらしたのか。本試験では以下の2つの1次評価項目が比較された。

1つ目は「CV死亡・心筋梗塞/冠血行再建・脳卒中」(CVイベント)である。スタチン群でハザード比(HR)は0.70の有意低値となっていた。治療必要数(NNT)は1年間で「218」、試験期間中央値である5.9年間ならば「37」である。

一方「死亡・認知症・身体障害」のHRは、スタチン群で0.94ながら有意差には至らなかった。「健やかな老後」は延長されなかった形だ。なお試験開始時(2014年)の1次評価項目はこちらに近いものだった(CVイベントは2次評価項目)[ClinicalTrials.gov]。Zoungas氏も報告時、こちらの評価項目を「高齢者にとっては重要な臨床転帰」と評価している。

スタチン服用に伴う有害事象はどうか。

「重篤有害事象」に限れば、発現率は両群とも「2.7%」で差はなかった。ただし「即時の死亡・入院には至らぬものの、危険、あるいは介入を要する有害事象」まで広げると、スタチン群で若干の増加傾向が認められた(8.8 vs. 6.7%。検定なし)。5.9年間の害必要数(NNH)は「48」となる。これら有害事象については、「5剤以上併用」例に限定した解析も待たれる。

この結果を、指定討論者のMach氏は以下のように要約した。

すなわち、「高齢」はもはやCV疾患1次予防目的のスタチンを控える理由とはならない。しかしだからと言って、(本試験の対象となったような)70歳以上全員がスタチンを服用すべきでもない。したがって担当医が考えるべきことは「どの高齢者がスタチンを、どれほどの期間服用すべきか」という選択と、「CVイベントを抑制すれば、その患者はより意義のある人生を送れるのか」という価値判断の2点だという。

本試験に製薬会社からの資金提供はない。資金は豪州政府機関とオーストラリア心臓財団、モナッシュ大学が提供した。

また本試験は報告と同時に、N Engl J Med誌ウェブサイトで公開された。

TOPIC 2
DOACは本当に現行適応より低リスクAF例でも有用なのか:RCT“SINGLE-AF”をめぐる諸問題

現在の欧米の心房細動(AF)ガイドラインでは、CHA2 DS2-VAScスコア「1の男性」「2の女性」に対する経口抗凝固薬(OAC)は、推奨度「Ⅱa」(考慮可)である。この有用性を直接検討したランダム化比較試験(RCT)が存在しないためだ。

そこでこの有用性を直接証明すべく、韓国では脳塞栓症「非」高リスクAF例を対象としたRCT“SINGLE-AF”が実施され、本学会で報告された。報告者は延世大学(韓国)のDaehoon Kim氏。

全体としてはポジティブな結果だが、細かく見ると臨床への応用にあたっては注意が必要なようだ。ESCにおける議論を含めて紹介したい。

SINGLE-AF試験の対象は、上述のようにCHA2DS2-VAScスコア「1の男性」と「2の女性」である。他疾患でOACが必要となる例は除外されている。約1800例が直接作用型OAC(DOAC)「服用」群と「非服用」群にランダム化され、盲検化されることなく2年間観察された。

平均年齢は60歳。65歳以上は30%強のみだった。また75%強を男性が占めた。AFは70%以上が「発作性」だった。指定討論者であるフローニンゲン大学(オランダ)のIsabelle C Van Gelder氏は「本試験の結果がより高齢、あるいは女性のAF例に当てはまるかは不明」と述べている。

そして結果だが、1次評価項目である2年間の「心血管系(CV)死亡・脳卒中・塞栓症・大出血」ハザード比(HR)は、DOAC「服用」群で「非服用」群に比べ0.31の有意低値となっていた(発生率は0.5 vs. 1.5%)。ただし治療必要数(NNT)は2年間で「100」である。

この結果について指定討論者のVan Gelder氏は、以下を指摘した。

まず「脳卒中」だが、発生率こそ「0.3 vs. 1.1%」と「服用」群で低値となっていた(NNT:125)。しかし「脳出血」は「非服用」群が皆無だったのに対し「服用」群では2例(0.2%)で発生していた(脳卒中は全3例)。このリスクをどのように評価すべきか。

次は「大出血」である。「非服用群の発生率が想定よりも高い」と同氏。発生率はDOAC「服用」群の0.3%に対し「非服用」群では0.5%だった。意外ではないだろうか。この背景にあるのが、「非服用」群における「不適切な抗血小板薬処方」である。36.5%(329例)が何らかの抗血小板薬を処方されていたが(「服用」群は0.4%[4例]のみ)、そのうち「適応」があったのは10%(33例)のみだった(本試験は非盲検)。不適切な抗血小板薬処方がなければ、「非服用」群における大出血発生率はどこまで低下し、1次評価項目の群間差はどう変化しただろう。

そして試験の「イベント数」にも問題があるという。当初は上記1次評価項目の発生率をDOAC「服用」群「2.0%」、「非服用」群「4.5%」として統計設計が行われていた。しかし実際には「0.5%」と「1.5%」である。両群間に本当に有意差が存在しているか疑問が残ると、Van Gelder氏は指摘していた。

SINGLE-AF試験は韓国政府機関、ならびに三真製薬と韓美薬品(いずれもDOACを発売)から資金提供を受けた。

また本試験は報告と同時にN Engl J Med誌ウェブサイトで公開された。

TOPIC 3
「遠隔監視下運動」で「AF負荷」抑制。従来指標のみでは見逃された有用性:RCT“NEXAF”

心房細動(AF)治療の有効性評価に「AF負荷」を用いる研究が増えてきた。「測定時間に占めるAF出現時間」の割合である。AF例の脳卒中や心不全リスクとの相関が多々報告され、注目されるに至った[Eur Heart J. 2024]。

本学会では運動療法によるAF負荷著明減少作用が、ランダム化比較試験(RCT)“NEXAF”で明らかにされた。同時に、「AF発生の有無」や「患者QOL」などの指標は「AF負荷減少」と相関しないという限界も示唆された。報告者はノルウェー科学技術大学(ノルウェー)のBjarne Martens Nes氏。

NEXAF試験の目的は、非永続性AFに対する運動療法が「AF負荷」に及ぼす影響の検証である。

身体活動性の低い非永続性AF 295例(平均64歳、72%が発作性)が「通常」治療群と「運動」追加群にランダム化され、心電計植え込みの上、1年間観察された。「運動」群では当初4週間、週2回の監視下運動セッションに参加し、スマートウォッチと連携アプリの操作に習熟。その後は個別に処方された運動を、それらデバイスを用いた遠隔監視下で継続した(プロトコール詳細は[Open Heart. 2025])。

その結果1年後、1次評価項目である「AF負荷」は「運動」群で「通常」群に比べ、相対的に45%、有意に減少していた(3.9 vs. 7.1%)。対照的だったのが「AF検出率」である。「運動」群76%、「通常」群78%で差がなかった。つまりこれまで頻用されてきた「AF検出率」のみで評価していたら、「運動」は「無効」と判断されていた。「QOL」も同様である。AFEQT(AF特化の患者報告指標)は両群間に有意差を認めなかった。

では「AF負荷」を抑制すると臨床転帰はどう変わったか。「運動」群では「通常」群に比べ、「AF関連入院」が相対的に46%、有意に減少していた(主として電気的除細動とアブレーション)。一方「非AF関連入院」には、群間差を認めなかった。

このように、AFに対する「短期間監視下後、遠隔監視下運動」による「AF入院抑制作用」も示唆された。この点も興味深い。なお指定討論者は、「本試験で検討された運動が心血管系(CV)イベントを減らすかどうか」、より長期の検討が必要だと指摘した。AF治療もいよいよ「CV転帰改善」がメインの目的になりつつあるようだ。

本試験は外部からの資金提供を受けたが、資金提供者に、製薬会社・デバイス会社は含まれていない。

論文化が待たれる。

TOPIC 4
ホットラインセッションに日本からのRCT。STEMIに対する「アスピリン非併用」の有用性は証明できず:RCT“PREMIUM”

本年のESCには、約125カ国から700本近い臨床試験が投稿された。その中でも「ホットライン」セッションは、臨床的に最も重要と判断された試験が採択される「檜舞台」である(本年は12セッション)。そして今年は、日本で実施された研究者主導によるランダム化比較試験(RCT)も報告された。近畿大学の中澤 学氏が報告したPREMIUM試験を紹介したい。

同試験はBoston Scientific Japanから制限なしの資金提供は受けているが、製薬会社からの資金提供は報告されていない。

検討されたのは、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)緊急PCI施行時における、「プラスグレル単剤」が「プラスグレル・アスピリン併用」(DAPT)に比べ「非劣性」かどうかである。仮に「非劣性」であれば、「STEMI後DAPTをどれほど継続後、抗血小板薬単剤に移行するか」という問題から臨床医は解放される(最初から単剤でスタート)。

対象はSTEMI後12時間以内で薬剤溶出性ステント(DES)留置予定だった2268例。PCI施行前にランダム化され、2216例が評価された。プラスグレルの維持用量は両群とも3.75mg/日、併用するアスピリンは81~100mg/日が用いられた。

1年間観察の結果、1次評価項目の「死亡・脳卒中・心筋梗塞」発生率は、「プラスグレル単剤」群で11.0%となり、「アスピリン併用DAPT」群の8.5%を有意に上回った(「非劣性」は確認できず)。害必要数(NNH)は1年間で「40」である。

これら1次評価項目の内訳を見ると、「プラスグレル単剤」群でリスク上昇が著明だったのは「心筋梗塞」だった。また以下のデータからは、初発STEMIの責任病変以外に起因する心筋梗塞の増加が示唆されたという。すなわち「症状寛解のための冠血行再建」の内訳を見ると、「非標的病変血行再建」のリスクだけが「プラスグレル単剤」群で上昇していた。

一方、2次評価項目ではあるが「大出血」は、「プラスグレル単剤」群で有意に少なかった。治療必要数(NNT)は「36」である。しかし中澤氏の結論は「STEMI例へのPCI施行時からのアスピリン非併用は支持されない」というものだった。

本試験は報告と同時に、N Engl J Med誌ウェブサイトで公開された。

冒頭に記したように、本試験は研究者主導で実施された。参加施設は全国にわたり、その数は69に上る。それでN Engl J Med誌に掲載されるクオリティが保たれていた。試験遂行のノウハウも知りたいところである。


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