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【識者の眼】「病院事務に、医療業界での経験は必要か?」前田昌亮

登録日: 2026.10.27 最終更新日: 2026.10.27

前田昌亮 (社会医療法人杏嶺会法人本部長、一宮西病院事務長)

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事務職を中途採用するとき、履歴書のどこを最初に見るだろうか。多くは医療機関での勤務歴である。求人票には、「医療業界経験者優遇」の文字が並ぶ。専門用語が通じ、慣行を知る人材は即戦力に見えるからだ。

前稿(No.5347)では、多職種の最前線に合意形成を担う事務責任者を置く意義を論じた。その担い手をどう選ぶか。経験者を求め続ける採用こそが、多様な専門職を活かすための土壌を損なっているのではないか。経験という資産が、なぜ組織を硬直させるのか。この逆説を解き明かしたい。

即戦力は、経験だけでは裏づけられない。81の調査、1万人余りを統合した研究では、入職前の経験と入職後の職務成績との関連は、補正相関で0.06にとどまった1)。ほぼゼロに近い。それでも経験者を求め続ければ、得るのは戦力ではなく同質性かもしれない。組織は似た人を引き寄せ、選び、合わない人が去ることで同質化する2)。医療業界での経験を採用条件にすれば、循環は加速する。硬直の原因は、同じ経験ばかりが積み重なることにある。

当院では、外来、救急、手術室など、多職種が連携する部門に専任の事務責任者を置く。全員が異業種の出身だ。医療業界での経験者を排除したのではない。資質で選び続けた結果である。面接では当院で定めた評価項目に沿って、論理性、自発性、ストレス耐性を経歴から確かめる。稲盛和夫氏の言う「自燃性」を見る。この仕事は、折れることも傷つくことも多い。それでも粘ることができるのは、自分で自分を燃やすことができる人である。未来を見据える人ほど、現状との落差を強く感じる。その違和感が燃料になる。

この基準で選んでも、当院の経験則では、医療業界での営業経験者は残りにくい。医師を顧客として接してきた経験が、対等な立場に立つことを妨げる場合がある。残った者は、その過去を振り切るほどストレス耐性が高かった。前職の経験は知識と技能をもたらす一方で、身についた行動の型が新しい環境への適応を妨げることがあり、業績への直接的な影響はむしろ負であるという研究もある3)。経験が組織を硬直させる、もう1つの理由である。

医療を知らずに事務責任者が務まるのか、と問われるだろう。私自身、医療とは無縁の業界から来た。知識は入職後に学んだ。学べないのは、医師と対等に向き合う姿勢である。当院の事務責任者も同じだ。数値目標に医師が反発したとき、彼らは論破しない。一対一で言葉の奥にある価値観を受け止め、相互理解へ進む。論理で押し切り、孤立した経験があるからだ。この姿勢を支えるのは経営トップである。院長は全体朝礼で病院の方向性を繰り返し語る。私も語る。方向性が浸透していれば、数値目標は個人の要求ではなく、病院の方針になる。それが後ろ盾だ。

事務責任者の要件は、医療業界での経験ではなく資質である。採用基準とは、組織が何を変えたいかということへの意思表示だ。多様な専門職が活躍する組織を、完成図の決まったジグソーパズルにしてはならない。多くの専門職の間に、形の違うピースを意図的に加え、環境に合わせて新しい絵柄を生み出し続ける。それが自律型組織である。

【文献】

1) Van Iddekinge CH, et al:Personnel Psychology. 2019;72(4):571-98.

2) Schneider B:Personnel Psychology. 1987;40(3):437-53.

3) Dokko G, et al:Organization Science. 2009;20(1):51-68.

前田昌亮(社会医療法人杏嶺会法人本部長、一宮西病院事務長)[医療業界での経験][採用基準][組織の同質化]

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