
❶ はじめに
日本の慢性透析患者総数は約35万人に上り,心房細動の合併率は非透析患者よりかなり高いと言われている。心房細動は脳塞栓症をはじめとする血栓症の原因疾患として重要であり,その予防目的に抗凝固薬の使用が推奨されるが,透析患者は血栓リスクと出血リスクがいずれも高く,抗凝固薬の投与にも困難が伴う。また,多くの抗凝固薬の臨床試験では透析患者が除外基準とされているため,透析患者におけるエビデンスはきわめて乏しい。
心房細動患者の管理について,わが国のJCS/JHRS(日本循環器学会/日本不整脈心電学会)ガイドラインの最新版である「2024年JCS/JHRSガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈治療(以下,2024年フォーカスアップデート版)」では,図1に示す4段階の治療ステップを提唱している1)。

透析患者においても,心房細動の管理は基本的には上記に従うことになるが,透析患者特有の問題があるため,治療方針決定の判断に悩むことも多い。
本稿では,初めに透析患者における心房細動合併の疫学データを紹介し,その合併率やリスク,心房細動合併透析患者の予後について概説する。そして,第3段階の抗凝固療法,それが適用できないときの経皮的左心耳閉鎖術,最後に第4段階のリズムコントロールのひとつであるカテーテルアブレーション手術について,それぞれ透析患者にターゲットを絞って解説したい。
❷ 透析患者における心房細動の合併率
我々循環器内科医は,透析中に心房細動が出て血圧が低下し,透析の継続に支障をきたす症例についてのコンサルトを受けることが特に多い。透析直前と終了後では,体内の水分量や電解質などが,短時間の間に大きく変動することになるため,これが心房細動をはじめとする不整脈の発生を促す素地となっているものと推察される。透析患者では心房細動の合併頻度が高いとされているが,その根拠は欧米諸国のデータが多く,国内からのデータは乏しいのが現状である。
(1) 海外データにみる合併率と独立リスク因子
2005年のイタリアからの報告によると,488人の透析患者のうち,心房細動を27%に認め,加齢や透析期間の長期化に伴い合併頻度が増加した。心房細動を合併する患者では,虚血性心疾患,拡張型心筋症,肺うっ血,弁膜症,脳血管疾患,透析前の高カリウム血症との関連が認められ,また左房拡大を有する症例が多かった。高血圧や糖尿病との関連は認められず,多変量解析では,年齢,透析期間,左房拡大が心房細動合併の独立リスク因子であった2)。
2009年のスペインからの報告によると,256人の透析患者のうち31人(12%)が透析開始時点で心房細動を有していた。高齢,左房拡大,女性が心房細動合併の独立リスク因子であった。一方,透析開始時点で洞調律であった225人では,平均2年の観察期間の間に28人(12%)が心房細動を発症し,それには心臓弁の石灰化,脚ブロック,脳梗塞既往,左室駆出率低下,高い脈圧,低ヘモグロビン値が関連していた。さらに,心房細動合併例では,非合併例に比べて死亡リスクが1.72倍,脳梗塞リスクが9.8倍に上昇することが示されている3)。
2010年の透析患者の国際レジストリであるDOPPS研究(Dialysis Outcomes and Practice Patterns Study)に登録された1万7513人のうち,2188人(12.5%)に心房細動が合併していた。しかし,この罹患率は国によって大きく異なり,日本の5.6%からベルギーの24.7%まで様々で,これには人種差に加えて,心房細動の検出法の違いが関与している可能性も指摘されている4)。

2017年のオーストリアからの報告によると,VIVALDI研究に登録された626人の透析患者のうち,166人(26.5%)に心房細動が合併しており,そのうち半数以上は発作性心房細動であった。心房細動合併と関連する因子は,高齢,男性,静脈血栓症,心不全,がん既往,透析期間であった。また,透析患者における心房細動合併率は,年々増加していることも示されている5)。
United States Renal Data System(USRDS)に登録された透析患者において,7.7%が心房細動を合併し,その合併率は1992年の3.5%から2006年の10.7%へと3倍に増加していた。患者数で見ると,同期間に3620人から2万3893人へと,6.6倍に増加していた。高齢,男性,併存疾患が心房細動合併と関連し,白人に比べて黒人やアジア人は罹患率が低いことが報告されている6)。
(2) わが国のデータ:一般住民との比較と伏見AFレジストリ
(1)一般住民との比較
わが国からの報告としては,2016年に岩手医科大学のOhsawaらが,調査対象地区の1510人の透析患者と2万6454人の一般住民における心房細動合併率を,それぞれ3.8%と1.6%と報告している。男性では4.9%と3.3%,女性では1.6%と0.6%であり,背景因子の違いを補正した標準化有病率比(standardized prevalence ratio)を算出すると,透析患者は一般住民に比べて,心房細動合併が2.53倍であった7)。
(2)伏見AFレジストリ
伏見心房細動患者登録研究(伏見AFレジストリ)は,筆者らが京都市伏見区において2011年3月から行っている心房細動患者の前向き観察研究である8)。本研究では,伏見区の医療機関(すべてが伏見医師会に所属)に通院する心房細動患者をできる限り全例登録して,臨床背景や治療の実態調査,予後追跡を行っている。
伏見区は,居住人口が28万人を超える京都市内最大の行政区であり,わが国の典型的な都市型人口構成を有する。登録患者総数は,2014年4月末時点で3985人である。登録基準に伏見区民であることは問うておらず,伏見区外の住民も含まれるため,あくまで参考値であるが,伏見区28万人の人口で除すると有病率は1.4%(男性1.7%,女性1.1%),70歳代では6.0%(男性7.1%,女性3.4%),80歳以上では7.6%(男性10.5%,女性6.4%)に心房細動がみられたことになる。

筆者らは伏見AFレジストリにおいて,追跡可能であった3713人の心房細動患者のうち,透析患者92人の臨床背景と予後を報告した9)。2019年日本透析医学会統計調査報告書によると,わが国における慢性透析患者数は,人口100万対比で2731.6人と報告されている10)。これを伏見区28万人の人口に当てはめると,伏見区の透析患者数は765人となり,92人の心房細動患者は12.0%と試算されることになる。したがって,伏見AFレジストリのデータからも,やはり透析患者には心房細動の合併が多いことがうかがわれる。
❸ 心房細動合併透析患者の臨床背景と予後
伏見AFレジストリにおける透析患者92人と,非透析患者3621人の臨床背景の違いを示す(表1)9)。

(1) 非透析患者との臨床背景の差異
心房細動患者の中で,透析患者は非透析患者と比べて,平均年齢は低く(71.3歳 vs. 73.7歳),体重が少なく,血圧値が高かった。併存症としては心不全,高血圧,糖尿病が多く,冠動脈疾患(39% vs. 14%),末梢動脈疾患(17% vs. 4%)といった動脈硬化性疾患は顕著に多かったが,脳卒中既往は両群で差がなかった(20% vs. 18%)。併存症がより多いことを反映して,平均CHADS2スコアは透析群で有意に高かった(2.5 vs. 2.0)。
図2に,両群のCHADS2スコア分布と,抗血栓薬投与状況を示す。透析群では,抗凝固薬の使用は少なく(40% vs. 54%),一方で,抗血小板薬の使用は多かった(47% vs. 24%)。抗凝固薬の使用は,直接型経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant:DOAC)の使用が透析患者では禁忌であるため,その大多数はワルファリンであった。抗血小板薬の多数はアスピリンであった9)。


