
児童・思春期の心身症の症状は咽喉頭絞扼感,腹痛・頭痛等の身体的な症状や,突然の脱力・めまい・癇癪・叫声・不機嫌,睡眠や覚醒の障害・夜驚・悪夢等の精神・神経的な症状など様々である。その症状のために不登校になったり,学業が遅れたりすることもある。病理変化もなく器質的要因も明らかでない心身症は加齢とともに改善することもあるので「心因性」の一言で経過観察にとどまることが多い。しかし,本人・家族は改善するまで苦痛の連続であり早急な治療が望まれる。著者はPTSDに有効といわれる神田橋処方(桂枝加芍薬湯合四物湯)と鎮静効果がある黄連解毒湯を応用すると著効することを多く経験している。四物湯は使用しなくてもいい症例が多いことにも気づいた。
漢方薬は通常は「気・血・水」や「五臓論」をベースに解説されるが,その理論で説明できない治療効果であるため,脳科学的な考察を展開する。日常の体験はその時に生じた情動(喜怒哀楽)とともに海馬で記銘される。海馬における神経新生の作用により,体験・情動ともに大脳皮質へ約30日かけて移行し,記憶(過去の出来事)として客観視ができるようになる。その作用で我々はあまり過去を引きずらずに生活できている。しかしトラウマ体験は処理能力が麻痺し海馬に記銘されたまま蠢く。そして,些細な刺激でその体験が蘇り日常生活に支障をきたす(フラッシュバック)。その処理能力の麻痺を改善するのが神田橋処方である。
著者の臨床経験上,この処理過程では脳神経細胞が過剰な熱を産生するようなので,抑え(冷却)のために黄連解毒湯を加える。また,四物湯は時にフラッシュバックを悪化させる傾向があるため初期には使わない。
体験・記憶処理の障害による心身症を改善
児童・思春期においては第三者には「些細なこと」と思われがちな事象が契機となって体調に異変が生じることがある。その事象はトラウマと呼べるほどのものではないかもしれない。本症例の場合は同級生の「食物による窒息」を見たことを契機として咽喉頭の絞扼感が惹起された。2カ月にわたる摂食困難が生じたが,体験・記憶の処理を改善する桂枝加芍薬湯+黄連解毒湯で翌日には食事ができるようになっていた。
教諭の「嘲りの言葉」が契機となって登校時の腹痛・脱力感のため不登校になった中学生や,集団登校時の上級生からの「侮辱的な言葉」が契機となって朝から頭痛がして不登校になった小学生も同様の処方で数日後には登校ができるようになった。児童・思春期の心身症・トラブルにこの処方を広く応用していただきたい。
