検索

×
絞り込み:
124
カテゴリー
診療科
コーナー
解説文、目次
著者名
シリーズ

【識者の眼】「概算要求に欠ける具体性と検証可能性」坂巻弘之

登録日: 2026.09.09 最終更新日: 2026.09.09

坂巻弘之 (一般社団法人医薬政策企画P-Cubed代表理事、神奈川県立保健福祉大学シニアフェロー)

お気に入りに登録する

厚生労働省は2027年度予算の概算要求を公表した。一般会計の要求額は36兆5803億円となり、過去最大を更新した。今回の概算要求は、前稿(No.5339)で取り上げた「経済財政運営と改革の基本方針2026(骨太の方針)」と「日本成長戦略」をふまえ、その内容を予算面で具体化するものでもある。高市政権が17の戦略分野のひとつに位置づけた「創薬・先端医療」では、「革新的医薬品の創薬環境整備」などの主要施策に計1969億円を要求している。このうち1883億円は、要求上限を設けない「強く豊かな日本」投資枠によるものである。

概算要求は、各省庁が翌年度に必要と考える政策とその経費を示すものであり、要求額がそのまま予算になるわけではない。査定を見越して要求額が積み増されている場合もあり、関係業界・団体に政策課題へ取り組んでいる姿勢を示す側面もある。とはいえ、多額の公的資金を要求する以上、根拠の見えない予算の積み上げには問題がある。政策の必要性に加え、具体的な施策と期待される効果、また、予算によって何を達成し、その成果をどう検証するのかということを明らかにしなければならない。こうした視点から見ると、ここでも威勢のよい言葉が躍る一方、個々の事業がどのような成果につながるのかは明確でなく、政策設計の粗さが目立つ。

たとえば、「創薬スタートアップ支援・人材育成」(355億円)では、「ラストワンマイル支援」が掲げられている。しかし、何をもって「ラストワンマイル」とするのか、どのような基準で支援対象を選び、支援後にどのような成果を求めるのかは明らかでない。さらに、「治験・臨床試験体制の強化」(155億円)では、「国際共同治験の倍増」という目標に対し、どの指標を基準として、いつまでに2倍にするのかが十分に示されていない。このため、資料に掲げられた各事業が目標にどう寄与し、その効果をどう検証するのかも不明である。

「AI創薬・薬事審査」(541億円)も同様である。AIを活用した医薬品等の審査・安全対策の推進に30億円が示されているものの、541億円の全体像や積算根拠は、この資料からは読み取りにくい。

AI審査について韓国と比較すると、具体性の乏しさはより鮮明になる。韓国の食品医薬品安全処(MFDS)は2026年2月、2026〜28年までの3年間で223億ウォン(約25.8億円)を投じ、医薬品のAI審査システムを段階的に構築する計画を公表した。2026年は専門翻訳や先発品と同等性を審査する医薬品へ、2027年は改良新薬へ、2028年は新薬へと対象を拡大する計画で、後続報道では、ジェネリック医薬品について、早ければ2026年10月からの活用も予定されている。日本のAI審査関連要求額約30億円は、韓国の3年総額約25.8億円を上回るが、日本の要求内容からは導入工程の具体像が見えにくい。

今後の予算編成では、個々の事業の目標、工程、評価指標を明示すべきである。公的資金を投じる以上、成果を検証し、それに基づいて事業を継続、修正、終了する仕組みまで政策設計に組み込まなければならない。威勢のよい掛け声と、業界への「大盤振る舞い」とも映る巨額の要求額だけでは、創薬力は強くならない。財政赤字が問題視される中、他の医療・福祉政策との優先順位を吟味し、税金を成果につなげる責任がある。

坂巻弘之(一般社団法人医薬政策企画P-Cubed代表理事、神奈川県立保健福祉大学シニアフェロー)[概算要求][創薬・先端医療

ご意見・ご感想はこちらより


1