検索

×
絞り込み:
124
カテゴリー
診療科
コーナー
解説文、目次
著者名
シリーズ

【識者の眼】「骨太の方針と日本成長戦略に欠ける具体性と検証可能性─創薬の『勝ち筋』を問う」坂巻弘之

登録日: 2026.08.05 最終更新日: 2026.08.07

坂巻弘之 (一般社団法人医薬政策企画P-Cubed代表理事、神奈川県立保健福祉大学シニアフェロー)

お気に入りに登録する

「経済財政運営と改革の基本方針2026」(以下、「骨太の方針」)と「日本成長戦略」が2026年7月21日に閣議決定された。「骨太の方針」が経済財政運営の基本方向を示し、「日本成長戦略」が成長・産業政策を具体化するという関係にある。

「骨太の方針」の創薬関連部分は、2025年版の「創薬力の強化とイノベーションの推進」の36行から、2026年版の「創薬・先端医療イノベーション」では21行へと大幅に縮小した。2025年版には、MEDISO(medical innovation support office、医療系ベンチャー・トータルサポート事業)、革新的医薬品等実用化支援基金、ファースト・イン・ヒューマン試験実施施設など、具体的な制度・政策手段が記載されていた。これに対し、2026年版では、その多くが「研究開発力や製造・供給の強化」「国際展開を総合的に推進する」といった包括的な表現に集約され、具体性の後退は否めない。研究開発、製造・供給、スタートアップ、人材育成など幅広い課題を掲げるものの、「推進する」「目指す」「取り組む」といった意向表明が中心であり、対象、手段、予算、期限、到達点はほとんど示されていない。成長戦略に具体策を移したとも考えられるが、こちらにも問題がある。

日本成長戦略では、政府が17の戦略分野を定め、「成長投資」を財政面から後押しする構成となっている。各分野は「重要性」「勝ち筋・方向性」「主な目標」「主な施策」で整理されている。しかし、少なくとも創薬関連分野では、過去の政策効果や失敗要因、国際競争力に関する分析が十分とは言いがたい。たとえば、研究面での先行や一部企業の成果を日本全体の競争優位とみなし、その持続性や産業化の可能性、世界の技術動向を十分に吟味しないまま「勝ち筋」と位置づけているように見受けられる。

官民投資ロードマップでは、課題や不確実性、投資主体、2040年度までの投資総額に加え、一部の政策手段も補足されている。しかし、「産業エコシステム」に代表されるように、政策パッケージの多くは従来施策の延長線上にあり、その効果を検証した形跡は乏しい(No.5329)。個別施策の実施主体、予算、期限、評価方法も明確ではなく、それぞれの施策が2040年の目標達成にどのようにつながるかも十分には示されていない。数値目標の算定根拠やリスク評価も明らかではなく、進捗や政策効果を検証できる設計とは言いがたい。これでは、過去の失敗を繰り返す「負け筋」になりかねず、「絵に描いた餅」と言うより「絵空事」に近い。

対照的に、英国政府が2025年6月23日に公表した「Modern Industrial Strategy」は、経済成長に重要な8分野について10年間の分野別計画を策定している。ライフサイエンス分野では、現状分析に基づく将来目標を掲げ、研究開発投資や資金調達などの評価指標と施策の担当主体を示している。また、戦略全体についても制度改正、投資額、雇用数などの進捗を四半期ごとに公表している。厳密な政策評価ではないものの、継続的な検証を可能とする仕組みが意識されている点は参考になる。日本に欠けているのは、抽象的な方針や期待事項の羅列ではなく、政策目的の達成につながる実効的な施策である。評価指標、工程、責任主体、投入資源を明示し、進捗を定期的に検証・公表して施策の見直しにつなげる仕組みが欠かせない。

高市内閣の「骨太の方針」と「日本成長戦略」を読む限り、創薬力の強化やイノベーション推進への本気度には疑問が残る。「勝ち筋」を掲げるのであれば、まず過去の政策を検証し、その根拠と実行・評価の道筋を示すべきである。威勢のよいかけ声ではなく、検証に耐える戦略こそ求められる。

坂巻弘之(一般社団法人医薬政策企画P-Cubed代表理事、神奈川県立保健福祉大学シニアフェロー)[骨太の方針日本成長戦略

ご意見・ご感想はこちらより


1