8月28日からミュンヘン(ドイツ)で開催された欧州心臓病学会(ESC)学術集会にて、ランダム化比較試験(RCT)STAREEがモナッシュ大学(オーストラリア)のSophia Zoungas氏により報告された。70歳以上の心血管系(CV)疾患1次予防例におけるスタチン開始の有用性を検討した試験だが、その結果をどのように臨床に反映させるのか。この点については議論があるようだ。ここでは同試験の概要をESCでの評価、またESCでは言及されなかった「患者背景」も含めて紹介したい。
STAREEの対象は、70歳以上で自立した生活を送り、かつ日常生活動作(ADL)障害は「なし」か「軽度」(Katzスケール≧5)[J Am Heart Assoc. 2024]、加えて「CV疾患既往」と「糖尿病既往」、さらに「認知症既往」や「認知機能低下」を認めない、オーストラリア在住の9971例である。
「認知症既往」例だけでなく「認知機能低下疑い」(3MSスコア<78)例も参加は不可だった。またスタチンを含む脂質低下薬使用例やスタチンの適応となる疾患を持つ例も除外されている。さらにランダム化前の1カ月間プラセボ導入期間において「服薬アドヒアランス」不良だった例も除外された(“Ask the Trialists”セッションにおけるZoungas氏発言)。
これらをクリアした9971例は、スタチン群(アトルバスタチン40mg/日)とプラセボ群にランダム化割り付けされ、二重盲検法で5.9年間(中央値)観察された。年齢は「70~74歳」が6割を占めた。「80歳以上」は15%弱である。LDL-C平均値は、脂質低下薬非使用下で127mg/dL。血圧は降圧薬服用例46%という集団で平均136/80mmHgだった。
高齢者で問題となる「ポリファーマシー」の状況はどうだったか。
「試験開始時、最も多く服用されていた」(Zoungas氏)「降圧薬」でも服用率は先述の通り46%。次に多い「制酸薬」が27%。「鎮痛薬」と「抗凝固薬」はそれぞれ21%と15%だった。その結果、「5剤以上服用」例の割合は20%だった[J Am Heart Assoc. 2024]。「この集団にはフレイル例や多疾患合併例、超高齢者が十分に含まれていない」と評したのは、指定討論者であるジュネーブ大学(スイス)のFrançois Mach氏である(「ポリファーマシー例」「服薬アドヒアランス不良例」も加えるべきではないか)。
さて結果である。
5.9年間の観察後、スタチン開始は患者にどれほどのメリットをもたらしたのか。本試験では以下の2つの1次評価項目が比較された。
1つ目は「CV死亡・心筋梗塞/冠血行再建・脳卒中」(CVイベント)である。こちらはスタチン群でハザード比(HR)0.70の有意低値となっていた。治療必要数(NNT)は1年間で「218」、試験期間中央値である5.9年間ならば「37」である。一方「死亡・認知症・身体障害」のHRは、スタチン群で0.94ながら有意差には至らなかった。「健やかな老後」は延長されなかった形だ。
なお試験開始時(2014年)の1次評価項目はこちらに近いものだった(CVイベントは2次評価項目)[ClinicalTrials.gov]。Zoungas氏も報告時、こちらの評価項目を「高齢者にとっては重要な臨床転帰」と評価している。
スタチン服用に伴う有害事象はどうか。
「重篤有害事象」に限れば、発現率は両群とも「2.7%」で差はなかった。ただし「即時の死亡・入院には至らぬものの、危険、あるいは介入を要する有害事象」まで広げると、スタチン群で若干の増加傾向が認められた(8.8 vs. 6.7%。検定なし)。5.9年間の害必要数(NNH)は「48」となる。有害事象については、「5剤以上併用」例に限定した解析も待たれる。
この結果を、前出指定討論者のMach氏は以下のように要約した。
すなわち、「高齢」はもはやCV 1次予防目的のスタチンを控える理由とならない。しかし、だからと言って(本試験の対象となったような)70歳以上全員がスタチンを服用すべきでもない。したがって担当医が考えるべきは「どの高齢者がスタチンを、どれほどの期間服用すべきか」という選択と、その患者の「CVイベントを抑制すれば、より意義のある人生を送れるのか」という価値判断の2点だという。
本試験に製薬会社からの資金提供はない。資金はオーストラリア政府機関とオーストラリア心臓財団、モナッシュ大学が提供した。