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あなたの一手が病院を変える─機能評価係数Ⅱとチーム医療[研修医・専攻医のためのDPC超入門(6:最終回)]

登録日: 2026.09.08 最終更新日: 2026.09.08

高田史門 (医療法人純徳会田中病院院長)

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3 あなたの一手が,係数を動かす

機能評価係数Ⅱは,確かに「病院全体」の数値だ。しかし,その数値はどこから生まれるのか。一人ひとりの医師の,日々の診療の積み重ねからだ。
考えてみてほしい。

効率性係数は,在院日数の短縮度から計算される。では,在院日数は誰が決めるのか? 主治医一人ひとりの判断と,退院支援の積み重ねだ。君が入院初日から退院をイメージし(第1回),多職種と連携して退院支援を進めれば(第5回),その患者さんの在院日数は適正化される。その1例1例が積み重なって,病院の効率性係数になる。

複雑性係数は,患者構成の複雑さから計算される。では,その複雑さは,どうやってデータに表れるのか? 君が,CCPマトリックスを理解し,A-DROPスコアや副傷病,処置を正確にカルテに記載すれば(第4回),その患者さんの重症度が正しくデータに反映される。その記載一つひとつが積み重なって,病院の複雑性係数になる。

つまり─。

君が適切な在院日数で患者さんを退院に導くたびに,病院の効率性係数は少しずつ動く。

君が正確に重症度を記載するたびに,病院の複雑性係数は少しずつ動く。

いや,それだけではない。君が「この患者さんは,うちでは診たことのないめずらしい病気だが,しっかり受け止めよう」と取り組めば,それはカバー率係数につながる。君が救急で運ばれてきた患者さんを,夜中でも誠実に診療すれば,それは病院の地域医療係数を支える営みの一部になる。

4つの係数のすべてに,現場の医師の診療が,何らかの形で関わっているのだ。

1例1例は,ほんのわずかな動きかもしれない。だが,それが何百例,何千例と積み重なれば,病院全体の係数を確実に動かす。1人の医師の一手が,病院全体の評価を動かしているのだ。

「僕の,たった1例の診療が……病院の係数につながっているんですね」

「そうだ。しかも,それは君だけじゃない。病院のすべての医師,すべてのスタッフの,一手一手が積み重なっている。機能評価係数Ⅱは,その病院で働く全員の診療の『総和』なんだ」

第3回で,「漫然とした採血は,病院から少しずつお金を捨てているのと同じ」という話をした。第4回では,「記載漏れは,年間で大きな取りこぼしになる」という話をした。

それと同じ構造が,ここにもある。良い方向にも,悪い方向にも,一人ひとりの診療の積み重ねが,病院全体を動かしている。

そして,忘れてはならないのは─この「積み重ね」は,決して「数字のためにやるもの」ではない,ということだ。順序を間違えてはいけない。適切な在院日数は,患者さんを廃用症候群やせん妄から守るためのものだ(第1回・第5回)。正確な記載は,医療の実態を正しく記録するためのものだ(第2回・第4回)。患者さんのために誠実な医療を実践した結果として,係数がついてくる。この順序こそが,本質だ。

4 個人から,チームから,病院へ,地域へ

ここで,この連載全体を貫いてきた「視点の広がり」を振り返ってみよう。

連載の前半(第1回〜第4回)では,主に「医師個人」の視点を扱った。退院をイメージする,正確にコーディングする,根拠ある検査をする,重症度を正しく記載する─いずれも君自身が,明日からできることだった。

第5回では,視点が「チーム」へと広がった。退院支援は1人ではできない。MSW,看護師,リハビリ職,薬剤師─多職種が連携して,初めて患者さんを生活へ帰すことができる。

そして今日,第6回で,視点はさらに広がる。「病院全体」,そしてその先の「地域医療」へ。

機能評価係数Ⅱの4つの係数を,もう一度見てほしい。効率性,複雑性,カバー率,地域医療。これらは,病院が地域の中で果たす役割そのものだ。

君が日々,適切な診療をし,正確に記録し,チームと連携する。それが病院の係数を支える。係数に支えられた病院の経営が安定する。経営が安定した病院が,地域医療を支え続けられる。救急を受け入れ,幅広い疾患に対応し,5疾病5事業に貢献する─その地域の医療を,守り続けられる。

つまり,こういうことだ。

君の一手は,患者さん1人を救うだけではない。その一手の積み重ねが,病院を支え,地域の医療を守っている。

少し想像してみてほしい。もし,君の病院が経営難に陥り,閉鎖されたら,どうなるか。その地域の人々は,急に具合が悪くなったとき,どこへ行けばよいのか。遠く離れた病院まで,何十分もかけて運ばれることになる。救急車のたらい回しも起こるかもしれない。地域に病院があるということ自体が,住民にとっての安心であり,命綱なのだ。

その病院を,経営面から支えているのが,機能評価係数ⅡをはじめとするDPCの仕組みであり,そして,その係数を動かしているのが,君たち一人ひとりの診療だ。君が誠実に診療することは,巡り巡って,その地域に病院が在り続けることを支えている。

第1回で「退院を急ぐ理由がわからない」と言っていた研修医が,今や,自分の診療が地域医療にまでつながっていることを理解しようとしている。これは,大きな成長だ。


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