

❶ はじめに

慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)の,特に透析期においては,カルシウム,リンの代謝異常とともに,線維性骨炎,無形成骨症,骨軟化症など,多彩な骨病変を発症する。これらの骨病変は腎性骨異栄養症と総称され,これまで,二次性副甲状腺機能亢進症(secondary hyperparathyroidism:2HPT)を中心に,副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone:PTH)を基準に検討されてきた。しかしながら,CKDにおける骨ミネラル代謝異常の主座は骨だけでなく,血管石灰化など全身にわたり生命予後に影響する病態と認識されるようになり,適切な共通の管理指針を提示する目的で,CKDに伴う骨・ミネラル代謝異常(CKD-mineral and bone disorder:CKD-MBD)という概念が提示された。この概念の最終的な目標は生命予後の改善であり,その手段としてリン,カルシウム,PTHなどの検査値の異常,骨の異常,血管石灰化を適切にコントロールすることとしている。
2012年に日本透析医学会(JSDT)からCKD-MBDガイドラインが発表された(2012ガイドライン)1)。このガイドラインでは,生命予後を最優先としたCKD-MBDの概念に則り,グローバルガイドラインであるKDIGO(Kidney Disease Improving Global Outcomes)に先駆けて,リン,カルシウム,PTHの管理目標値が設定された。そして2025年に,10年以上の時間を経て,CKD-MBDガイドラインの改訂が行われた(2025ガイドライン)2)。2025年の改訂では,①2012ガイドライン時に用いられたJSDT統計調査のデータは,カルシミメティクスがほとんど使われていない状況下のものであったことから,2008年のカルシミメティクス上市以降の新しいデータセットで解析する必要があったこと,②欧米と異なり,わが国では週初めに採血することが多いため,わが国独自のデータであるJSDT統計調査結果を用いて,わが国のCKD患者に即したガイドラインを作成すること,③テーラーメイド医療を意識することによって,個々の患者の予後改善や服薬アドヒアランスにも配慮することを目的として,ガイドライン作成が進められた。本稿では,2025ガイドラインの方向性もふまえ,最新のCKD-MBD管理について考察する。
❷ リン管理の重要性:高リンが老化を加速する
(1) 高リン血症が生体にもたらす影響
CKD-MBDによる心血管病の特徴は,血管石灰化である。血管石灰化は,アテローム硬化に起因した内膜石灰化と,血管平滑筋細胞の骨芽細胞様変化が原因と考えられる中膜石灰化にわけられる(図1)。CKDに伴う血管石灰化は後者が特徴的であり,この血管中膜石灰化の主な原因が“リン負荷”(もしくは高リン血症)である。in vitroの検討において,血管平滑筋細胞を高リン培地で培養すると,細胞膜に存在するナトリウム依存性リン輸送体(Pit-1)を介して細胞内リン濃度が上昇し,骨芽細胞特有の転写因子であるRunx2の発現上昇を介して,骨芽細胞様変化をきたすことがわかっている3)。その結果,血管中膜に全周性,連続性の石灰化病変を形成し,いわゆるメンケベルグ型血管石灰化を呈すると考えられている。

実際,高リン血症を呈する透析患者では,冠動脈を含む様々な動脈に中膜石灰化をきたすことが多く,これにより血管のしなやかさや,ふいご機能(心臓が収縮して送り出した血液を大動脈が拡張して受け止め,心臓が拡張する間にその血液を末梢血管へ送る作用)が失われ,心負荷を増大させ,心肥大を惹起すると考えられる。しかし,中膜石灰化は図1cに示す通り内腔は開存しており,血管の狭窄を伴わないにもかかわらず,高リン血症を呈する透析患者では心筋梗塞を発症しやすい。この理由については明らかではないが,リン負荷により血管内皮細胞における血小板凝集作用が阻害されることが原因ではないかと考えられている。また高リン血症は,弁石灰化を介した大動脈弁狭窄症や,刺激伝導系の石灰化で不整脈を生じる原因にもなる。
高リン血症が最も顕著に現れるのが,腎機能が廃絶した透析患者である。透析患者における高リン血症では,死亡ハザード比が約2倍にも及び,高リン血症と死亡リスクの強い関連が示唆される(図2)4)5)。一方,腎機能正常者においても,血清リン値の上昇とともに心血管イベントの発症リスクが上昇することが疫学研究で明らかにされており6),健常者においてもリンを適切に管理することが重要である。

(2) リンと老化
老化(aging)とは,生物学的には時間経過とともに生物の個体に起こる変化,特に生物が死に至るまでの間に起こる機能低下やその過程を示す。1997年,Kuro-oら7)により老化様症状が加速する突然変異マウスが報告された。生後4週齢頃から成長障害,性腺・胸腺・皮膚の萎縮,血管石灰化,心肥大,骨粗鬆症,骨格筋の萎縮(サルコペニア),肺気腫,難聴,認知症などを発症し,衰弱して8週齢前後で早死した。このマウスで欠損している遺伝子が同定され,Klothoと命名された(図3)。一方,ヒトにおいてこれら老化症状に似た表現型を呈する病態がCKDである。Klotho欠乏状態とCKD患者では多くの共通点がみられる(表1)8)。全身の表現型としては,体重減少,身体活動度の低下,繁殖能力の低下がみられ,寿命は概して短く,また,心血管病としては,心肥大や血管石灰化といった特徴的な病態が共通している。


このようにCKD患者では老化と同様の機序により死亡リスクが上昇している可能性があり,その重要な鍵となる因子がリンである。Klotho変異マウスを低リン食で飼育し,リン貯留が起きないようにすると,生存率が上昇し,老化様症状は軽快することから,“高リンが老化を加速する”と考えられている。すなわち,高リン血症を防ぐことがCKD患者の生命予後を向上させ,老化症状の進行を抑制する上で重要となる。
❸ 最新リン管理:キーワードは厳格管理と個別化管理
CKD-MBDにおいて,リン,カルシウム,PTHを適切に管理することが予後の改善につながると考えられる。これらの検査値の異常について,2012ガイドラインでは生命予後に与える影響から,リン>カルシウム>PTHの順に優先して管理することが提案された1)。特に高リン血症,高カルシウム血症では死亡リスクが高くなることが示された5)。2025ガイドラインでは,Practice Pointとして「原則としてリン,カルシウム管理をPTH管理より優先する」としながらも,「ただしPTHを適正に管理することで,リン,カルシウムが管理しやすくなることも考慮に入れる」としている。これは,カルシミメティクスのカルシウム,リン低下作用を念頭に置いたものであり,リン,カルシウム,PTHを総合的かつ相互に管理することの重要性を示唆している。ここでは主に透析患者におけるリン,カルシウム,PTH管理について言及する。


