
❶ はじめに ─「ガイドラインと現場の深刻なギャップ」という構造的課題
スマートウォッチで「心房細動(atrial fibrillation:AF)の通知」や「不規則な心拍の通知」を受けた患者が,それを受診の入り口として来院することが増えてきた。しかし,その通知は診断書ではなく,ガイドラインが規定する「診断基準」や「抗凝固療法開始基準」を満たすものでもない。このガイドラインと現場の深刻なギャップを理解した上で,どのように受診対応し,確定診断をくだしていくのか。それが本稿のテーマである。
AFは高齢社会における代表的な不整脈であり,虚血性脳卒中の危険因子である。AF関連脳卒中は他の原因による脳卒中より重症化しやすく,未診断AFの初発症状が脳卒中である症例も少なくない1)2)。短時間の12誘導心電図(electrocardiogram:ECG)だけでは発作性AFをとらえきれないことが従来の課題であった。
そこに登場したのが,消費者向けスマートウォッチである。光電式容積脈波(photoplethysmography:PPG)による不規則脈波通知と30秒単誘導ECG機能を搭載し,日常生活下での長期モニタリングを可能にした。さらに,医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency:PMDA)の承認も相まって,「スマートウォッチで心房細動の疑いがあると言われた」という患者が,かかりつけ医や内科外来を受診する機会は確実に増えている。
しかし,ここに深刻な構造的課題がある。スマートウォッチの通知はあくまで「受診のきっかけ」であり,「AF診断」ではない。「2024年JCS/JHRSガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈治療」が定めるAF診断基準は「12誘導ECGまたは単誘導ECGで30秒以上持続するAFを確認すること」1)であり,抗凝固療法の開始基準とも一致しない。したがって,通知を契機に受診した患者に対し,「どこまで検査を行うか」「カルテに何を記載するか」「いつ直接経口抗凝固薬(direct oral anticoagulants:DOAC)を開始するか」について,現場の判断を支える実践的指針が求められている。
本稿では,
①各社製品の機能の理解,
②受診から確定診断までの診療導線,
③ガイドラインとリアルのギャップへの実践的対処,
④実際のカルテ記載,
⑤抗凝固療法判断の原則,
について具体的な症例やpitfall,tipsを交えて解説する。
❷ 日本国内で案内されているスマートウォッチのAF関連機能
(1) 日本国内で案内されている3社製品の共通点
2026年7月現在,日本国内でAF関連機能の公式案内が確認できるスマートウォッチは,Apple,Fitbit(Google傘下),Huaweiの3社製品である(表1)3)~10)。

3社に共通するのは,これらの機能が「AFの確定診断ではなく,受診を促す入り口として位置づけられている」点であり,各社とも,「陰性結果はAFを否定するものではない」「確定診断は医師が行う」ことを明示している。
(2) 光電式容積脈波(PPG)通知の仕組みと各社の違い
PPGは,手首の皮膚に照射した光の反射変化から脈拍間隔を推定し,その不規則性からAFを疑う技術である11)。一方,ECGのように心筋の電気活動を直接記録するものではないため,心房期外収縮(premature atrial contraction:PAC)や心室期外収縮(premature ventricular contraction:PVC),洞性不整脈,さらには体動アーチファクトなども「不規則脈波」として検出されうる点に注意が必要である(表2)3)~10)。


