グローバル市場調査会社が2026年4月に公表したレポート『Pharma R&D Annual Review 2026』によれば、2026年初頭時点で、世界の開発パイプラインの50.1%をバイオ医薬品が占めている。各国はバイオ医薬品を成長産業と位置づけ、育成策を競っている。たとえば、韓国食品医薬品安全処の発表では、2026年第一四半期の医薬品輸出額は過去最高の28億ドルに達し、その71%がバイオ医薬品であった。韓国では、バイオ医薬品は国家の成長・輸出戦略産業となっている。
日本でもバイオ医薬品の重要性は高い。厚生労働省のNDBオープンデータをもとに分析すると、2023年度の国内医薬品市場は約10.42兆円、このうち注射薬は3.86兆円であり、その約3分の2に当たる約2.62兆円がバイオ医薬品である。
しかし、その大部分は海外開発品であり、とりわけ日本のバイオ創薬力の低下は著しい。国内開発とされる免疫チェックポイント阻害薬、アミロイドβを標的とするアルツハイマー病治療薬、乳がん向け抗体薬物複合体(ADC)も製造は海外に依存している。日本のバイオ医薬品産業の空洞化は、容易に回復しがたい段階にある。
近年の政府の成長戦略では、創薬・先端医療が重点17分野のひとつに位置づけられた。これは、医薬品産業を国家成長戦略の中核に据える姿勢を示すものである。しかし、政策内容を見ると、研究開発力の強化よりも、国内生産体制の整備が前面に出ている。供給途絶リスクの低減という観点は重要であるものの、創薬競争力そのものの強化という視点は相対的に弱い。
これまでのバイオ創薬力強化の議論では、国内製造拠点の整備や国内エコシステムの構築が重視されてきたが、十分な成果を上げているとは言いがたい。日本では1990年代以降、多くの企業がバイオ医薬品開発から撤退し、その過程で研究人材、開発・製造ノウハウ、事業基盤が失われた。さらに、国内のバイオ医薬品受託製造事業も長期的に低迷している。現在の開発力の低下は、単なる製造拠点不足ではなく、「失われた30年」の帰結である。したがって、国内だけでバイオ創薬・製造力を再構築しようとする発想自体が限界と言える。
いまやバイオ医薬品創製でもAI活用が急速に進み、創薬競争力そのものを左右する時代となりつつある。世界では次世代の創薬競争がはじまっているが、日本はAI人材の不足やデータ基盤整備の遅れにより、この分野でも遅れをとっている。欧米の企業は国境にとらわれず、人材・データ・研究資源を求めてグローバルに投資を進めている。にもかかわらず、日本が国内製造に過度に固執し、国内完結型のエコシステムにこだわり続ければ、競争から取り残されかねない。海外も含めた研究開発投資、人材獲得、国際連携へと速やかに戦略転換を図る必要がある。
坂巻弘之(一般社団法人医薬政策企画P-Cubed代表理事、神奈川県立保健福祉大学シニアフェロー)[バイオ医薬品開発]