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院内のハラスメント疑惑にどう立ち向かうか?―客観的かつ適法な内部調査の進め方[〈知っておきたい〉医療機関の法的リスクヘッジ(37)]

登録日: 2026.08.04 最終更新日: 2026.08.04

川﨑 翔 (よつば総合法律事務所東京事務所所長/弁護士)

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key word:ヒアリングの順序,証拠としての信用性

医療機関を運営していると,スタッフから「パワハラを受けた」「セクハラに悩んでいる」といった切実な相談が持ち上がることがあります。このような不祥事や労働問題は,職場の雰囲気を悪化させるだけでなく,対応を誤れば医療機関の法的責任に直結する,きわめて重大なリスクをはらんでいます。実は,ハラスメントを理由に会社や医療機関が訴えられて高額な賠償を命じられるケースの多くは,ハラスメントそのものの是非というよりも,その後の「調査の進め方」や「対応の不適切さ」が原因となっています。

今回は,スタッフからハラスメントの訴えがあった際,院長や管理者が取るべき「客観的かつ適法な内部調査の進め方」について,実務上の注意点を交えて解説します。

1.「うちは大丈夫」に潜む罠と放置の代償

まず,多くの医療機関が抱きがちなのが,「うちはスタッフの仲が良いからハラスメントなんて起きない」「これまで具体的な相談は来ていないから大丈夫」という思い込みです。しかし,調査によれば,パワハラを受けた人の約4割が,セクハラに至っては約5割の人が「会社や上司に言っても意味がない」と声を上げずに黙っていたという実態があります(令和5年度厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」)。声を上げることができずに悩んでいるスタッフが多数存在する可能性を,院長や管理者は常に認識しておかなければなりません。

また,具体的な相談や申告があったにもかかわらず,「波風を立てたくない」と放置することは厳禁です。過去の裁判例では,スタッフからのパワハラの訴えを聞き流して具体的な事実調査を行わなかった結果,被害者が自殺に至ったとして,会社側に約1000万円という高額の損害賠償を命じた事例もあります。この裁判例(東京高裁平成29年10月26日判決)では「パワハラの訴えがあったときには,その事実関係を調査し,調査の結果に基づき,加害者に対する指導,配置換え等を含む人事管理上の適切な措置を講じるべき義務を負うものというべきである」と指摘しています。

さらに,「加害者とされる者に『気をつけてね』と声をかけただけで,本格的な事実調査をしない」という対応も,使用者としての法的義務を尽くしたとは見なされません。医療機関の裁判例(名古屋地裁岡崎支部令和5年1月16日判決)では,複数回のセクハラの訴えに対して詳細な聞き取りをせず,加害者への注意喚起にとどめた行為を「安全配慮義務違反」と認定し,医療機関側に損害賠償を命じています。裁判所は「職場におけるセクハラへの対処方針を明確にし,これを周知徹底するべく種々の啓発活動を行うことに加え,個々の申出に対しても適切に対応する義務を負う」と述べ,ハラスメントの被害の訴えがあった時点で,医療機関には「速やかに事実関係を調査する義務」が法律上生じることを明確にしています。

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