6月5日から4日間、米国糖尿病学会(ADA)第86回学術集会が米国・ニューオーリンズで開催された。昨年同様、減量作用やHbA1c低下作用の比較研究が隆盛で、臨床転帰への影響を検討した報告は少なかった。本稿では「体組成への影響」や「臨床転帰」をめぐる3演題を紹介したい。
TOPIC 1
GLP-1RAに伴う肥満例の筋肉量減少を抑制する新たな薬剤登場:RCT“COURAGE”
GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)を用いた減量で懸念されているのが「筋肉量の減少」である。それら薬剤に伴う筋肉量減少は、報告によりばらつきはあるが、体重低下の15~60%を占めるとされる[Diabetes Obes Metab. 2024]1)。
しかしこのような筋肉量減少を抑制する薬剤も登場している。既報の通り昨年の米国糖尿病学会(ADA)では、アクチビン2型受容体(ActR Ⅱ)拮抗作用を持つ「ビマグルマブ」がランダム化比較試験(RCT)“BELIEVE”において、GLP-1RA使用に伴う筋肉量減少を有意に抑制したことが報告された(Web医事新報「肥満例におけるセマグルチド除脂肪体重減少をビマグルマブが抑制:RCT"BELIEVE"」2)。本年に入りNat Med誌掲載3))。
本年は、ミオスタチン(GDF8)阻害作用を持つ「トレボグルマブ」にも同様の作用があり、さらに同剤の筋肉量減少抑制作用は骨格筋量の少ない例でより著明である可能性が示された。Regeneron Pharmaceuticals, Inc.(米国)のJesse Chao氏が、RCT“COURAGE”の追加解析として報告した。
【背景】
トレボグルマブは上述のようにGDF8の阻害を介し、その下流であるActR Ⅱの活性化を抑制する。ActR Ⅱ活性化は筋合成を減少させるため、トレボグルマブには活性化抑制を介した筋量維持が期待されていた[Endocr Rev. 2021]4)。COURAGE試験はそのような流れの中で実施された(同剤開発のRegeneron Pharmaceuticals, Inc.が資金提供)。
【対象・方法】
COURAGE試験の対象は「BMI≧30kg/m2」の非糖尿病599例。全員がGLP-1RA(セマグルチド2.4mg/週)を使用の上、低・高用量「トレボグルマブ併用」群、「高用量トレボグルマブ+ガレトスマブ(アクチビンA阻害を介するActR Ⅱ活性抑制剤)併用」群と「プラセボ併用」群の4群にランダム化され、26週間観察された(本稿ではガレトスマブ併用群を除いた結果のみ紹介)。
【結果】
主要な結果は既に、昨年の欧州糖尿病学会(EASD)で報告されている。
すなわち「体重減少」は、「GLP-1RA単独(プラセボ併用)」群、低・高用量「トレボグルマブ併用」群ともおよそ10kgで、群間差は認めなかった。にもかかわらず「除脂肪体重の減少幅」(DXA評価)は、低・高用量「トレボグルマブ併用」群で有意に抑制されていた。すなわち「GLP-1RA単独」群の減少幅が3.3kgだったのに対し、低・高用量「トレボグルマブ併用」群は1.5~1.9kgのみだった(P<0.001)。
今回報告されたのは、上記データを「低骨格筋量」の有無で2群にわけ、解析した結果である(「低骨格筋量」の定義はFNIH基準を採用)。
まず「低骨格筋量」例の割合だが、40%にも上っていた。そして「トレボグルマブ併用」による「除脂肪体重減少抑制」(vs. 「GLP-1RA単独」)作用は、「低骨格筋量」群のほうが非「低骨格筋量」群よりも有意ではないが大きい傾向を認めた。
すなわち「トレボグルマブ併用」群における除脂肪体重「低下抑制幅」(vs. 「GLP-1RA単独」群)は、非「低骨格筋量」群が「1.9~2.2kg」だったのに対し、「低骨格筋量」群では「3.8~4.3kg」まで増えていた(いずれも「GLP-1RA単独」群とは有意差)。
【考察】
Chao氏は、これらの変化が「臨床転帰」にどのような影響を与えるか、さらなる研究が必要だと釘を刺した。このような姿勢は「体重」や「HbA1c」を評価項目としたRCTでも必要だろう。
なお質疑応答では「脂質代謝に対する影響」を問う声が上がった。念頭にあったのは先述の“BELIEVE”試験で観察された「ビマグルマブ群におけるLDL-C値上昇」だろう。セマグルチド単独(プラセボ併用)群では約14mg/dL低下していたLDL-C値が、ビマグルマブ群では逆に8~17mg/dL上昇していた(開始直後に急激に上昇し、その後減少)。
Regeneron社プレスリリースにはトレボグルマブ使用により「コレステロール」への(有意ではないものの)好影響が見られたと記されていたが、報告者でありながらChao氏はこの解析については何も知らされていなかったようで「追加データは本年のEASDで報告される」と答えるのみだった。
TOPIC 2
肥満例に対するGLP-1RAによるCVイベント抑制は「HbA1c低下」とも無関係:SELECT試験事前設定解析
GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)は、2型糖尿病を合併しない肥満例(ただしアテローム動脈硬化性疾患既往あり)においても、心血管系(CV)イベントを抑制する。これは2023年に報告されたランダム化比較試験(RCT)"SELECT"5)で明らかになった。ではその機序は何か。現在わかっている限り、「体重減少」作用ではない(後述)。
そして本会では、「血糖低下」作用もCVイベント抑制と無関係である可能性が示された。UT サウスウェスタン・メディカル・センター(米国)のIldiko Lingvay氏が報告した。
【対象と主要結果】
SELECT試験の対象は、糖尿病ではないがアテローム動脈硬化性疾患を有する「BMI≧27kg/m2」の1万7604例である。日本を含む世界41カ国から登録された。これら1万7604例はGLP-1RA注射群とプラセボ群にランダム化され、二重盲検法で平均39.8カ月間観察された。
その結果、GLP-1RA群ではプラセボ群に比べ「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」(1次評価項目)ハザード比は0.80の有意低値となった。ただし治療必要数(NNT)は平均約40カ月で「67」である。
【今回の方法と結果】
今回比較されたのは、試験開始後20週間のHbA1c変化幅別に見た、その後の「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」発生率である(一部データはDiabetes Care既報6)。発生率曲線は初公開)。なお試験開始時のGLP-1RA群HbA1cは32%が「6.0~<6.5%」、35%は「5.7~<6.0%」だった。
その結果、GLP-1RA群では、試験開始後20週間にHbA1cが「0.3%超低下」(改善)、「0.3%超上昇」(悪化)、「それ以外」(不変)の3群間で、「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」発生率にまったく差を認めなかった。3群のカプラン・マイヤー曲線は観察期間を通してほぼ重なり合ったまま推移していた。
なおプラセボ群では、HbA1c「不変」群で「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」発生率が最も低く、「悪化」群で高い傾向が認められた(検定なし)。「改善」群で最少となっていない点は興味深い。
【考察】
SELECT試験では既に、GLP-1RAによるCVイベント抑制は「体重減少率の大小」にかかわらず認められることが明らかになっている〔2024年米国糖尿病学会(ADA)報告7)、のちにLancet掲載8)〕。
すなわちGLP-1RA群では試験開始後20週間で「5%以上体重減少」に成功した群(61%)でも「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」リスクは、「体重減少5%未満」群 1(33%)や「体重増加」群(6%)と有意差はなかった(事前設定解析)。つまり「減量幅の大小」は「CVイベントリスク減少作用」と無関係だった可能性が高い。
同様の知見は、のちに報告されたRCT"SURPASS-CVOT"9)でも観察された。同試験ではGLP-1/GIP受容体作動薬がGLP-1RAに比べ、試験開始後36カ月間で体重を6.8%有意に低下させながら、4.0年間(中央値)の「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」リスクには群間で有意差はなかった。「薬剤による体重減少→CVリスク抑制」という流れには「ならなかった」のである。
肥満例に対するGLP-1RAのCVイベント抑制作用は、どのような機序を介しているのだろうか。
SELECT試験はNovo Nordiskから資金提供を受けて実施された。同社は試験プロトコル作成にも参加し、試験データベース管理と統計解析を担当した(統計は第三者がレビュー)。また同社からは4名が治験運営委員(steering committee)にも名を連ねた。
TOPIC 3
肥満例のCV転帰改善に適した薬剤は?:RCTネットワーク・メタ解析
GLP-1受容体作動薬が「減量薬」として注目されて久しい。しかし肥満例における心血管系(CV)イベント抑制作用を検討したランダム化比較試験(RCT)は少ない。肥満例のCVイベント抑制をめざす場合、優先すべき薬剤は何なのだろう。
そこで肥満例を対象にCVイベント抑制作用を検討したRCTをもとに、至適治療を探ろうとする試みが、本会で報告された。ベス・イスラエル・ディーコネス医療センター(米国)のShohinee Sarma氏によるRCTネットワーク・メタ解析である。この領域では初の試みだという。
【対象】
解析対象となったのは、肥満例を対象に「強化生活習慣改善」か「減量手術」、「薬剤治療」による「CVイベント抑制作用」を検討したRCT 67報である(試験参加例総数は20万5889例)。対象の平均年齢は64歳、BMI平均値は33kg/m2だった。
【方法】
これら67試験を用いて「間接比較」も可能な「ネットワーク・メタ解析」を実施し、治療法ごとの「重篤CVイベント」(MACE)、「心不全」、「死亡」の対プラセボ群抑制作用が比較された。比較の指標に用いられたのは「P-スコア」である(「0~1」間の値を取り、大きいほうが他治療法よりも優れている可能性が高い)。
【結果】
まず「MACE」抑制作用を比較すると、P-スコアが最も大きかったのは「メトホルミン」、ついで「チルゼパチド」、「SGLT2阻害薬(カナグリフロジン)」の順だった。対プラセボ群オッズ比(OR)は順に0.63、0.71、0.72である。
ただしメトホルミンとチルゼパチドはORの95%信頼区間(CI)が「1」をまたいでいるため、上記結果には「不確実性」があるとSarma氏は注意を呼びかけている。CINeMA(ネットワーク・メタ解析における結果信頼性の指標)を用いた評価でも、メトホルミンの上記結果は、他2剤に比べ信頼性に劣ると判定された。
「心不全」はどうか。こちらはP-スコアの大きい順に「減量手術」、「SGLT2阻害薬(ソタグリフロジン)」、「チルゼパチド」の順番だった。ただし「減量手術」のOR 95%CIは「0.03−1.70」ときわめて広い。CINeMAでの評価も上記メトホルミン以上に低く、解釈には注意が必要なようだ(SGLT2阻害薬とチルゼパチドの95%CIは「1」をまたがず)。
「死亡」抑制では「ソタグリフロジン」と「エンパグリフロジン」の「SGLT2阻害薬」が「P-スコア」「OR」ともワンツーフィニッシュを飾り、「メトホルミン」が続いた。ただしメトホルミンのORはここでも95%CIが「1」をまたいでおり、Sarma氏は結果には不確実性が残ると見ている。
【考察】
Sarma氏は上記の結果から、死亡と心不全を抑制するにはSGLT2阻害薬が最も確実と考察している。ただしそれに加え、肥満例の転帰改善にはCVリスクに応じた治療の選択が重要であり、「減量」だけに目を奪われないことが肝要だとも付記している。
なお本報告に関係した研究者に、開示すべき利益相反はないとのことである。
【文献】
1) Neeland IJ, et al:Diabetes Obes Metab. 2024;26 (Suppl 4):16-27.
2) Web医事新報:肥満例におけるセマグルチド除脂肪体重減少をビマグルマブが抑制:RCT“BELIEVE”.
https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_26666
3) Heymsfield SB, et al:Nat Med. 2026;32(3):869-82.
4) Rodgers BD, et al:Endocr Rev. 2021;43(2):329–65.
5) Lincoff AM, et al:N Engl J Med. 2023;389(24): 2221-32.
6) Lingvay I, et al:Diabetes Care. 2024;47(8):1360-9.
7) 宇津貴史:医事新報. 2024;5250:62-8.
8) Deanfield J, et al:Lancet. 2025;406(10516): 2257-68.
9) Nicholls SJ, et al:N Engl J Med. 2025;393(24): 2409-20.