◉頭部・顔面,手掌,足底,腋窩に温熱や精神的な負荷,また,それらによらずに大量の発汗が起こり,日常生活に支障をきたす状態を多汗症と定義している。
◉多汗症の有病率は他の皮膚疾患と比べても決して少なくないにもかかわらず,医療機関への受診率が低い。
◉掌蹠多汗症の治療法は,基本的に外用療法,イオントフォレーシス療法が第一選択肢であり,これらの治療に抵抗性を示す症例のみA型ボツリヌス毒素(BTX-A)療法,交感神経遮断術などが適応となる。
◉顔面・頭部多汗症は塩化アルミニウム外用療法が第一選択肢であり,抗コリン薬内服療法は第二選択肢である。
◉腋窩多汗症において制汗剤の外用療法に反応しない重症例では,BTX-A療法が適応となる。
◉新たに開発された3種類の外用抗コリン薬は,患者および医療機関への利便性に優れている。
◉腋窩多汗症の新規治療薬であるソフピロニウム臭化物外用薬とグリコピロニウムトシル酸塩水和物2.5%ワイプ製剤には,ゲル基剤とワイプ製剤という剤形の違いがある。いずれもアルコールが含まれるため,アルコールアレルギーのある患者には使えない。また,ソフピロニウム臭化物外用薬はアンテドラッグであるため,全身的な抗コリン作用は少ないとされているが,一方で制汗効果がマイルドな傾向にある。
◉オキシブチニン塩酸塩外用薬は塩化アルミニウム外用薬に比べて刺激性が少なく,全身的な抗コリン作用も他の外用抗コリン薬と同程度に少ない。

- 原発性局所多汗症の概要(定義,病態)
- 原発性局所多汗症治療の必要性(多汗症による影響,疫学)
- 多汗症の分類・診断・重症度
- 原発性局所多汗症の治療選択
- 従来の治療法との比較
- 将来考えられる問題点
❶ 原発性局所多汗症の概要(定義,病態)
エクリン汗腺は発汗により主に体温調節機能を担っているが,そのほか,角層のバリア機能の維持,皮膚表面の適度な湿度を供給する機能,自然免疫などの外界の細菌やウイルスから体を守る作用が注目されている。汗は皮膚が正常な役割を果たすためにこのように重要な役割を持つが,頭部・顔面,手掌,足底,腋窩に温熱や精神的な負荷,また,それらによらず,大量の発汗が起こり,日常生活に支障をきたす状態を多汗症と定義している1)。
原発性局所多汗症の病態は不明であるが,多汗症患者の汗腺は健常者と比較して数や大きさなど組織病理学的な異同はないことから,多汗は汗腺の発汗機能亢進と考えられる1)。一般的にヒトの発汗現象は温熱性発汗,精神性発汗,味覚性発汗の3種類に分類されている。また,発汗現象は身体の各部位で病態が異なるので,局所多汗症の病態を考えるときにも部位別に検討する必要がある。
手掌,足底の発汗は,ヒトを含む動物では手足に適度な水分を供給して「滑り止め」の役割を持つ。ヒトでは不安などの精神的負荷などで誘発されるため,精神性発汗と言われている。手掌,足底は温熱刺激では発汗が生じないこと,睡眠で発汗が消失することから,温熱性発汗中枢(視床下部体温調節中枢)とは別の中枢支配と考えられる1)。精神性発汗中枢としては,扁桃体,前部帯状回,大脳基底核,縫線核の関与が指摘されている1)。この精神性発汗中枢への入力刺激に対し,病的に持続的な多量発汗が生じる場合には原発性手掌(足底)多汗症と診断される。手掌,足底の多汗症は青年期までに発症し,しばしば多汗症の家族歴があることから,本病態は遺伝的に生じた発汗系交感神経の病的な過活動と考えられる1)。
❷ 原発性局所多汗症治療の必要性(多汗症による影響,疫学)
原発性局所多汗症は単なる“汗っかき”とは違い,学業や仕事などが難しくなり,生活の質(QOL)が著しく低下する疾患である。日常・社会生活に支障をきたし,心理的にも悪影響を引き起こすことがあり,患者からは次のような訴えがよく聞かれる。
•足裏に汗をかき,裸足で床を歩いたりサンダルを履いたりすると滑る。
•授業中や試験中に手汗が止まらず,試験用紙などが破れるためタオルが手放せない。
•仕事中に汗をかいて業務に差し支える。
•握手したり手をつないだりすることが苦手。
•子どもに嫌がられてしまう。
•携帯電話やパソコンなどの電子機器が壊れるほど多量の汗が出る。
•多汗が原因で登校や進学ができなくなったり,うつ病を発症したりする。
◆
本邦における最近実施された疫学調査では,2020年に6万969人を対象としたweb上でのアンケート調査がある。原発性局所多汗症の有病率は10.0%(腋窩5.9%,頭部・顔面3.6%,手掌2.9%,足底2.3%)であり,年代別の有病率は,20~49歳において10%以上で,20~39歳にピークがみられた。また,手掌では15~29歳に発症年齢のピークがみられた。医療機関への受診率は4.6%であったが,受診継続率は0.7%と医療機関での治療が継続できていないという実態が明らかになった(表1)1)。この報告では医療機関の医師に対しての調査も同時に行っており,治療選択肢が少なく,積極的な治療ができないと答えた医師が58.2%存在した1)。表21)に示したように,2010年以降の報告では,世界中の多くの国において多汗症の有病率は他の皮膚疾患と比べても決して少なくないにもかかわらず,医療機関への受診率が低いという共通点がみられた。


疾患背景については,近年,多汗症患者の日常生活でのQOLの低下や,患者の精神状態への悪影響が明らかになってきており,患者の医療ニーズは高まってきているが,治療の普及が十分とは言えない。また,インターネット社会が到来し,空調が整った住居環境での勤務など,生活様式の変化といった要因も受診率が低い要因の1つであると考える1)。
❸ 多汗症の分類・診断・重症度
1 分類
多汗症は,全身の発汗量が増加する全身性多汗症と,体の一部のみの発汗量が増加する局所性多汗症に分類されている(図1)1)。

全身性多汗症には,特に原因のない原発性(特発性)全身性多汗症と,他の疾患に合併して起きる続発性全身性多汗症がある。続発性全身性多汗症には結核などの感染症,甲状腺機能亢進症,褐色細胞腫などの内分泌・代謝疾患や,神経学的疾患,薬剤性がある。神経学的疾患では,大脳皮質の障害により発汗機能亢進や低下が認められる。
一方,局所性多汗症にも原発性(特発性)と続発性があり,Frey症候群は続発性局所性多汗症のひとつで,耳下腺の手術や外傷のあとで食事のときに耳前部が赤くなり,多汗がみられる症候群である。損傷を受けた副交感神経が発汗神経に迷入することにより発症すると考えられている(表3)1)。

2 診断
Hornbergerら2)は原発性局所多汗症の診断基準として,局所的に過剰な発汗が明らかな原因がないまま6カ月以上認められ,以下の6症状のうち2項目以上当てはまる場合としている(図2)1)2)。

3 重症度
重症度の評価として,多汗症疾患重症度評価度(hyperhidrosis disease severity scale:HDSS)が有用である1)。発汗がまったく気にならない,日常生活に支障がない方は1で正常,我慢できる程度の方は2,ほとんど我慢できず日常生活に頻繁に支障をきたす方は3,我慢できず常に支障をきたす方は4というように重症度をわけ,このうち3と4を重症と診断する1)。汗の量を測定する発汗試験は専門機関でのみ実施されており,平均発汗量が2mg/cm2/min以上の場合に重症と診断している。


