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FOCUS:鼻副鼻腔炎の治療戦略

登録日: 2026.06.26 最終更新日: 2026.06.26

前田陽平 (JCHO大阪病院院長特任補佐/耳鼻咽喉科診療部長)

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JCHO大阪病院院長特任補佐/耳鼻咽喉科診療部長
前田陽平
2005年大阪大学卒業。大阪大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科で助教として勤務後,2022年よりJCHO大阪病院耳鼻咽喉科診療部長。2024年より同院院長特任補佐兼任。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会認定専門医・指導医,日本鼻科学会認定鼻科手術暫定指導医,日本アレルギー学会認定専門医・指導医。専門分野は鼻副鼻腔疾患・アレルギー疾患。特に慢性鼻副鼻腔炎,経鼻内視鏡手術,鼻中隔手術。
私が伝えたいこと
◉急性鼻副鼻腔炎においては,抗菌薬が必要なケースは多くない。第一選択はAMPC。
◉急性鼻副鼻腔炎,慢性鼻副鼻腔炎のいずれにおいても,二次性の可能性を考える。
◉好酸球性鼻副鼻腔炎において,徹底的な手術は重要な治療の軸となる。ステロイドの継続投与は可能な限り行わずに,病状をコントロールする。
◉生物学的製剤の使いわけに正解はないが,それぞれの薬剤の特徴を理解しておく。

❶ はじめに─鼻副鼻腔炎とは?

鼻副鼻腔炎の診断・治療について概説します。以前は「副鼻腔炎(sinusitis)」の名称が広く用いられていましたが,近年では鼻腔から副鼻腔に炎症が及ぶことから,鼻副鼻腔炎(rhinosinusitis)の名称がよく使われます。本稿では急性鼻副鼻腔炎,慢性鼻副鼻腔炎にわけて,その診断・治療戦略をジェネラリストから耳鼻咽喉科医まで,広い対象に向けて記載します。

まず,鼻副鼻腔炎とは何でしょうか? 鼻副鼻腔炎は鼻腔および副鼻腔の炎症性疾患です。国内外のガイドラインではいずれも,鼻副鼻腔炎として症状(鼻汁・鼻閉,嗅覚障害,顔面の圧迫感や顔面痛,頭痛)があるもの12で,内視鏡所見として鼻茸(鼻ポリープ)や膿性・粘性鼻漏を,CT所見として副鼻腔に陰影を認めるものとされています。したがって,本来的な定義としては症状のあるものを鼻副鼻腔炎とするのですが,本稿では便宜上,無症状のものも含めて記載していきます。

❷ 急性鼻副鼻腔炎

(1) 診断─画像所見より問診がポイント

急性鼻副鼻腔炎は,「急性に発症し,発症から4週間以内の鼻副鼻腔の感染症で,鼻閉,鼻漏,後鼻漏,咳嗽といった呼吸器症状を呈し,頭痛,頰部痛,顔面圧迫感などを伴う疾患」1と定義されます。なお,慢性鼻副鼻腔炎は3カ月以上の病歴で診断されるので,その間(1〜3カ月)の病歴の鼻副鼻腔炎は亜急性鼻副鼻腔炎とされ,状況に応じて急性鼻副鼻腔炎もしくは慢性鼻副鼻腔炎に準じて治療が行われます。

急性鼻副鼻腔炎は病歴と内視鏡所見(場合により鼻鏡所見),画像所見(基本的にはCT)で診断しますが,内視鏡所見や画像所見が常に必要なわけではありません。基本的には,病歴と問診で容易に疑うことができます。インフルエンザやCOVID-19もいわゆる「鼻風邪」様の症状を呈することはよくあるので,これらの疾患を必要に応じて除外することもあります。

内視鏡所見や鼻鏡所見で明確に膿性鼻漏が中鼻道から出てきているのが確認できれば,副鼻腔に炎症が波及していることは明らかで,鼻副鼻腔炎と診断するためだけの画像検査は不要です。そもそも,問診だけでかなり鼻副鼻腔炎の存在を疑うことが可能です。画像検査も必須ではありません。問診では鼻副鼻腔炎の症状があるかどうかを確認します。つまり,疾患の定義そのものが問診のポイントなのです。

実際のところ画像検査が必須になるのは①眼窩・頭蓋内の合併症の可能性がある,②二次性の鼻副鼻腔炎の可能性がある,場合です。

(1)鼻風邪との鑑別

急性鼻副鼻腔炎なのか鼻風邪なのか,ということを考える上では,通常の感冒の経過について知っておくことが基本になります(1)。5日ぐらいで鼻閉や発熱は引いてくるが,その後も数日間,咳や鼻汁は残る,というのがざっくりとした感冒の臨床経過です。したがって,10日を超えて症状が続く場合や,5日を超えて増悪する場合に急性鼻副鼻腔炎を考えます。

急性鼻副鼻腔炎のうち,細菌感染は一部であり,抗菌薬が必要な細菌感染はさらに一部であることが知られています(2)。ウイルス性を含む急性鼻副鼻腔炎のうち,0.5~2%程度が急性細菌性鼻副鼻腔炎で,細菌性であっても抗菌薬なしで治ることがあるというのが重要なポイントです。急性細菌性鼻副鼻腔炎を疑う上で重要になるのは,38℃以上の発熱,double sickening(一度軽快しはじめたあとに再度症状が悪化すること),局所的な疼痛,CRPや血沈の上昇,膿性鼻漏の5つのうち,3つ以上が陽性になることです。

(2)二次性を念頭に置く

また,二次性の鼻副鼻腔炎については,常に念頭に置いておく必要があります。特に片側性の鼻副鼻腔炎については,二次性の可能性を強く考える必要があります。片側性の鼻副鼻腔炎で急性鼻副鼻腔炎様の臨床像を呈するものとしては,まず歯性副鼻腔炎があります。この場合はCTを撮影し,歯根病変について評価する(口腔上顎洞瘻や歯根透亮像,インプラント感染など)必要があります。ほかには血管炎(多発血管炎性肉芽腫症や好酸球性多発血管炎性肉芽腫症など),浸潤型副鼻腔真菌症も急性鼻副鼻腔炎様の経過を取ることがあります。これらは症状の強さと経過で疑いますが,難治性ならば耳鼻咽喉科での精査を勧めるということが現実的な対応になるかと思います。

筆者の経験では,血管炎に伴う鼻副鼻腔炎は副鼻腔のみならず鼻腔(鼻中隔や下鼻甲介)にも炎症が強くみられることが多く,これがヒントになることも多いです。歯性副鼻腔炎は画像所見から疑うことが容易ですが,浸潤型副鼻腔真菌症は画像ではわかりにくいこともあります。浸潤型副鼻腔真菌症については,免疫不全の背景(糖尿病や高齢)がある患者で疼痛を訴えることが多い,ということもヒントになります

(2) 治療─抗菌薬の使い時

治療について,もちろん対症療法は重要になります。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)による鎮痛をしっかり行うとともに,鼻洗浄を行うことも有効であるとされています3。「鼻副鼻腔炎診療の手引き」では,症状・所見に応じて軽症・中等症・重症にわけています(1)。さらに,日本感染症学会の「気道感染症の抗菌薬適正使用に関する提言」のフローチャートに従って診療することが勧められています4。細菌性を疑う状態でも,軽症であれば抗菌薬不要であることがわかりやすいフローチャートとなっています。なお,初期の抗菌薬投与は,合併症を減らすことはないというエビデンスがよく知られています2

本邦では,ライノウイルスやパラインフルエンザウイルスなどの上気道炎ウイルスと,肺炎球菌,インフルエンザ菌,モラクセラ・カタラーリスなどが原因微生物として知られています。それらをふまえて,抗菌薬の第一選択としてアモキシシリン(AMPC)5日間が推奨されています。AMPCは高用量を投与することで肺炎球菌耐性菌にも効果を発揮することが知られており,「鼻副鼻腔炎診療の手引き」で推奨されている投与量である1回500mg 1日3回5日間(小児に対しては,1回15~30mg/kg 1日3回5日間)で投与します。そこで改善しない場合の第二選択については,初診時の細菌検査結果をふまえて考えることが重要になります。

鼻洗浄のコツ
鼻洗浄は「温生食」で行います。米国などでは,アメーバ症のリスクのために,湯冷ましで生理食塩水を作ることが推奨されています。国内の水道水は比較的安全ですが,特に免疫低下がある場合などは,湯冷ましに食塩を入れて生理食塩水の濃度とします。やや濃い食塩水にすると,より効果が高いとする報告もありますが,刺激は少し強くなります。鼻洗浄は強くやりすぎないことが重要です。洗浄液が逆の鼻から出ても,口から出ても問題ありませんが,耳が痛くなるようなら,強くやりすぎなので注意します。鼻洗浄は,鼻風邪,急性・慢性鼻副鼻腔炎など幅広い病状に勧められるセルフケアです。

(3) 合併症─眼窩内が最も多い

鼻副鼻腔の周囲には眼窩・頭蓋底などの重要構造物があるため,これらに合併症を生じることがあります。眼窩内合併症(60~80%)が最も多く,その次に頭蓋内合併症(15~20%),骨性合併症(5%)と続きます。

(1)眼窩内合併症はChandler分類で考える

眼窩と篩骨洞は,紙様板という薄い骨のみによって仕切られています。そして,前篩骨神経管・後篩骨神経管には,しばしば骨欠損がみられるために,篩骨洞や前頭洞から眼窩に炎症が波及する場合があります5。さらに,眼窩内静脈を介して海綿静脈洞に炎症が波及します。小児は骨が多孔性であることなどから,眼窩内に炎症が波及しやすいという特徴があります。

筆者は古典的なChandler分類(3)に従って考えています。また,視力や視野,眼圧,中心フリッカー検査などの眼科的評価も必須になります。一般的には,Chandler分類のグループ2までであれば保存的加療を優先してよく,グループ3以上であれば外科的治療を強く考慮します。小児の場合は抗菌薬に反応しやすいとも言われています2ので,総合的に判断して治療方針を決定します。

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