GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)は、2型糖尿病を合併しない肥満例(ただしアテローム動脈硬化性疾患既往あり)においても、心血管系(CV)イベントを抑制する。これは2023年に報告されたランダム化比較試験(RCT)"SELECT"で明らかになった。ではその機序は何か。現在わかっている限り、「体重減少」作用ではない(後述)。
そして6月5日から米国ニューオーリンズで開催された米国糖尿病学会(ADA)第86回学術集会では、「血糖低下」作用もCVイベント抑制と無関係である可能性が示された。UT サウスウェスタン・メディカル・センター(米国)のIldiko Lingvay氏が報告した。
【対象と主要結果】
SELECT試験の対象は、糖尿病ではないがアテローム動脈硬化性疾患を有する「BMI≧27kg/m2」の1万7604例である。日本を含む世界41カ国から登録された。これら1万7604例はGLP-1RA注射群とプラセボ群にランダム化され、二重盲検法で平均39.8カ月間観察された。
その結果、GLP-1RA群ではプラセボ群に比べ「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」(1次評価項目)ハザード比は0.80の有意低値となった。ただし治療必要数(NNT)は平均約40カ月で「67」である。
【今回の方法と結果】
今回比較されたのは、試験開始後20週間のHbA1c変化幅別に見た、その後の「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」発生率である(一部データはDiabetes Care既報。発生率曲線は初公開)。なお試験開始時のGLP-1RA群HbA1cは32%が「6.0~<6.5%」、35%は「5.7~<6.0%」だった。
その結果、GLP-1RA群では、試験開始後20週間にHbA1cが「0.3%超低下」(改善)、「0.3%超上昇」(悪化)、「それ以外」(不変)の3群間で、「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」発生率にまったく差を認めなかった。3群のカプラン・マイヤー曲線は観察期間を通してほぼ重なり合ったまま推移していた。
なおプラセボ群では、HbA1c「不変」群で「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」発生率が最も低く、「増悪」群で高い傾向が認められた(検定なし)。「改善」群で最少となっていない点は興味深い。
【考察】
SELECT試験ではすでに、GLP-1RAによるCVイベント抑制は「体重減少率の大小」にかかわらず認められることが明らかになっている(2024年ADA報告、のちにLancet掲載)。
すなわちGLP-1RA群では試験開始後20週間で「5%以上体重減少」に成功した群(61%)でも「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」リスクは、「体重減少5%未満」群(33%)や「体重増加」群(6%)と有意差はなかった(事前設定解析)。つまり「減量幅の大小」は「CVイベントリスク減少作用」と無関係だった可能性が高い。
同様の知見は、のちに報告されたRCT"SURPASS-CVOT"でも観察された。同試験ではGLP-1/GIP受容体作動薬がGLP-1RAに比べ、試験開始後36カ月間で体重を6.8%有意に低下させながら、4.0年間(中央値)の「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」リスクには群間で有意差はなかった。「薬剤による体重減少→CVリスク抑制」という流れには「ならなかった」のである。
肥満例に対するGLP-1RAのCVイベント抑制作用は、どのような機序を介しているのだろうか。
SELECT試験はNovo Nordiskから資金提供を受けて実施された。同社は試験プロトコル作成にも参加し、試験データベース管理と統計解析を担当した(統計は第三者がレビュー)。また同社からは4名が治験運営委員(Steering Committee)にも名を連ねた。