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【識者の眼】「ARIサーベイランス1周年─その限界と影の存在意義(Ⅱ):病原体定点監視の問題点」西村秀一

登録日: 2026.06.19 最終更新日: 2026.06.19

西村秀一 (独立行政法人国立病院機構仙台医療センター臨床研究部前ウイルスセンター長)

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前稿(No.5331)では、新しい感染症の出現をリアルタイムに検出することを目標とする急性呼吸器感染症(acute respiratory infection:ARI)サーベイランスについて、その大目標の達成は、報告定点からの毎週のARI患者受診状況の報告とPCR検査による病原体サーベイランスとを組み合わせることで可能である、との見方を紹介した。

詳細な公式説明を見つけることができないが、これまで得ている情報からは、ざっくり言って以下の仕組みのようである。病原体定点が、毎週第二営業日にARI候補患者の最初の5件から採取した検体を地方衛生研究所へ送る。それらに対して研究所が網羅的PCR検査を実施し、特定のウイルスの検出を試みる。そこで検出できないものの中に、国民への重大な脅威となる病原体が含まれている可能性がある、という具合である。

だが、それはあまりに楽観的というものである。

第一の問題は、感度である。そもそも報告定点と病原体定点は同一施設ではない。また、後者の数はきわめて少ない。たとえば、筆者の住む宮城県では病院2施設、小児科診療所1施設しかない。そこから週最大5件/施設×3施設=15件のサンプリングである。

仮に報告定点で何かが起き始めているとしよう。通常の監視定点データの変動の中で異常なピークが出現するまで、さらにそのピークを形成する病原体を病原体定点が拾い上げるまで、いったいどれだけの時間がかかるのだろうか。たとえば、そのピークがインフルエンザの流行ピークの中に埋もれてしまったときはどうなるのか。

国民の脅威となる感染症流行の出鼻をとらえようとしても、定点数も検査検体数も少なすぎる。集計して初めて“何か起きていた”ことがわかるかもしれない、という程度の感度である。

そして、第二の問題は、特異度である。病原体定点では、既存の網羅的PCR検査で陰性となることは日常的に経験される。その理由としては、(1)既知の病原体であってもPCR検査のプライマーが適合していない、(2)検体中の病原体量が少なすぎる、そして最後に(3)未知の病原体(unidentified agent)がある。

だが、そもそも既存のPCR検査で検出できない感染症は、当然ながら拾い上げることはできない。さらに言えば、複数の病原体が同時に検出されることも少なくない。その場合、それらのうちのどれが患者の発症にどれだけ関与しているのか。実のところ検出している人間もわからない。

この状況下で、日本のどこかで発生した脅威となる感染症が、週合計で最大十数件(もちろん、より多い自治体もあるだろうが、それでも桁は変わらないだろう)という限られた検体の中に偶然に、いや奇跡的に含まれ、それが日本の科学の粋を集めた病原体同定プロセスへ入っていくまでの時間を考えれば、リアルタイムとはほど遠いものになる。

結局のところ、最初に異変として認識されるのは、“地域の病院に原因不明の急性呼吸器系重症化症例が目立ってくること”のはずである。

さて、ここまで筆者は、読者諸氏にこのサーベイランス事業が無駄の塊であるかのように吹き込んできた。だが、足元を掬うようで恐縮だが、あながちそうでもない。その話は次稿で。

西村秀一(独立行政法人国立病院機構仙台医療センター臨床研究部前ウイルスセンター長)[急性呼吸器感染症サーベイランスPCR検査

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