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【識者の眼】「ARIサーベイランス1周年─その限界と影の存在意義(Ⅰ)」西村秀一

登録日: 2026.05.28 最終更新日: 2026.06.11

西村秀一 (独立行政法人国立病院機構仙台医療センター臨床研究部前ウイルスセンター長)

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以前私見を本連載(No.5284)に記した“地方衛生研究所による感染症発生動向調査への急性呼吸器感染症(acute respiratory infection:ARI)サーベイランスの追加”から、1年が経過した。都道府県に協力する定点医療機関(人口5万〜10万人に1箇所)がARIの定義に該当する外来患者数を毎週集計・報告する仕組みであり、国主導で導入されたものである。もっとも、開始後1カ月の時点で既に、現場担当者の評判はすこぶる悪かった。

この追加の大きな目的は、“これまで把握されていなかったARI全体の発生状況を把握し、未知の病原体による呼吸器感染症の流行を探知すること”とされている。そこで、この1年間の宮城県のデータを具体的に眺めてみた。すると、やはり予想通りのことが見えてくる。

定点当たりのARI報告数のグラフでは、夏休みの時期に急激な落ち込みがみられるほか、春から冬にかけては週ごとにギザギザした変動を示しながらも、おおむね滑らかに推移している。そして冬にはインフルエンザの流行に合わせるようにピークが形成され、年末年始には予想通り急減する。

このグラフに異常なピークが表れたときこそ、ARIサーベイランス追加の目的が達成されたことになる。では、この1年間でそのような事態は起きただろうか。結論から言えば、グラフ上に特別な変化は認められなかった。

しかし、本当に「特別なこと」は起きなかったのだろうか。実際には、2025年春から秋にかけて百日咳の大きな流行があった。仮にこれを「未知の感染症」としてみよう。この流行は、ARIのグラフ上に異常なピークとして表れていただろうか。答えはNoである。

百日咳にはARIの定義に含まれる咳嗽症状が、明確に存在する。監視の目的からすれば、この流行はグラフ上で検出されるべきであった。実際、流行が広く認識される以前には、多くの患者が咳嗽症状のみでARI報告の対象となっていたはずである。にもかかわらず、この“未知の呼吸器感染症”は、ARIサーベイランスではリアルタイムにとらえられなかった。

結局のところ、いつも通りのギザギザしたグラフ─そこには地域ごとの感染状況の差や医療機関ごとの診断傾向の違いも含まれる─に、“未知の呼吸器感染症”が加わったとしても、相当な数に達しない限りその重大性を判定することは難しいのである。

前回、この追加事業について、“干し草の山の中から針1本を探しだそうとするという比喩がぴったりの無駄な努力”と評したが、いざ蓋を開けてみれば、針どころか釘すら見つけられなかったことになる。

もっとも、「PCR検査による病原体サーベイランスと組み合わせることで“目的”が達成される」との説明もあるだろう。しかし、それはそれで別の大きな問題を孕んでいる。続きは次稿で。

西村秀一(独立行政法人国立病院機構仙台医療センター臨床研究部前ウイルスセンター長)[急性呼吸器感染症感染症発生動向調査

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