精神科診療の場で、患者から「薬には副作用があるから、精神療法で治療してほしい」と言われることはめずらしくない。では、本当に精神療法には副作用がないのだろうか。
筆者が自験例や紹介例で経験し、精神療法の副作用ではないかと感じた症状や行動には、「治療目標であった不安や抑うつ感が、かえって増悪した」「治療者が病気で診療できなくなった途端、精神面が非常に不安定になった(No.5323)」「自然寛解が予測されるうつ病が遷延していた」「患者の症状は軽快したが、家族がうつ状態になった」「患者の抑うつは軽快したが、家庭内暴力が目立ってきた」などがある。
薬物療法では、治療対象とする症状への効果以外に生じる心身への影響を副作用と呼ぶことが多い。抗不安薬による眠気のように予測しやすいものもあれば、頻度が低く予測困難なものもある。また、薬剤そのものより、治療者の薬剤選択や増減方法の不適切さに起因することもあるし、患者側の感受性の違いによることもある。ただし、薬物療法では、期待される効果だけでなく、起こりうる副作用についても、可能な限り事前に説明すべきとされている。
精神療法においてまず検討されるべきは、治療者の知識と技術である。精神療法の技法は年々増加しており、すべてに精通することは難しい。そのため、知識や技術が不十分なまま実施される危険性がある。一方、自分が説明しやすい治療法を重視するあまり、患者によって病態は異なるのに同じ方法を適用することも適切ではない。
さらに、副作用の可能性がある変化を「患者が抱えていた心の中の問題の顕在化」とみなし、精神療法の技法そのものが十分に議論されないことも少なくない。不安や抑うつが治療中に強まることを「治療過程で必然的に起こる変化であり、むしろ治療に利用すべきだ」と考える立場もある。こうなると、治療効果と副作用の境界は非常にあいまいになる。
カウンセリングと精神療法を厳密に区別しない考え方もあり、カウンセリングという言葉の意味は多彩である。おおむね「悩みや不安を傾聴し、気持ちの整理を助けること」と言えるが、精神療法や薬物療法ほど治療目標を明確に定義していないとも言える。よって、新たに出現した症状や行動上の問題があった場合でも、それを副作用と呼ぶべきかどうかを判断しにくい。
精神療法、薬物療法のいずれにおいても治療開始前には、期待される効果と、出現する可能性のある問題について、患者にできる限り詳しく説明し、治療への同意を得るべきである。特に、副作用か否かを論じることが難しい症状や行動が起こる状況では、できる限り当事者以外も議論に加われるような「治療の透明化」が必要であろう。
術野をビデオ撮影し、専門家間で議論する外科手術の透明化のような方法は、精神科診療では個人情報の問題もあって容易ではない。しかし今後は、それに準じた透明化のあり方を模索していく必要があると思われる。
宮岡 等(北里大学名誉教授)[精神療法][カウンセリング][副作用]