前稿(No.5323)では、学術雑誌の購読料や論文のオープンアクセス(OA)論文掲載料(APC)を通じて、アカデミアから過大な利益を得る商業出版社に対し、欧州の11の研究助成機関が不満を募らせた結果、研究助成を受けた論文について出版直後のOA化(即時OA化)を義務づける「プランS」を打ち出した経緯を紹介した。
この方針では、研究者の論文の投稿先をOA誌に限定することで、従来型の学術雑誌をOA誌へ転換させる、あるいは市場から退出させることを狙っていた。また、OA誌の主要な収入源であるAPCにも上限を設け、商業出版社がOA誌においても過度な利益を得ることを抑制しようとした。
しかし、この強硬策は、商業出版社のあり方に批判的であったアカデミア側にとっても、やや行きすぎと受け止められた側面がある。研究者の評価は、論文が掲載された学術雑誌の権威性に大きく依存しており、権威ある学術雑誌の多くを含まないOA誌への投稿に限定されることは、研究者キャリアにおいて不利に働きかねない。プランSを推進する研究助成機関は、研究評価において掲載誌の権威性を考慮しない方針を示したものの、それだけでは現実的な問題を解消できなかった。最終的に「転換契約」という仕組みを導入し、従来の有力誌への投稿も一定程度認めることとなった。結果として、この譲歩は商業出版社に交渉の余地を与えることにもつながった。
権威ある学術雑誌の多くは、購読料とAPCの双方を課す「ハイブリッド誌」である。これは、基本的に購読者のみがアクセス可能なクローズドな媒体である一方、著者がAPCを支払えば当該論文のみをOA化できる仕組みであり、「二重取り」との批判が根強い。プランSは当初、こうした雑誌への投稿を認める条件として、商業出版社と大学等が転換契約を締結し、3年以内に完全OA誌へ移行することを求めていた。
ところが、ネイチャー誌やサイエンス誌などのいわゆるトップジャーナルについては、出版社における編集コストが大きいため、他の雑誌と同列に「出版社単位の転換契約に含めることは困難」との強い反発が出版社側からあった。そのため、これらの雑誌については、雑誌単位でOA比率を段階的に引き上げるという緩やかな条件へと修正された。また、当初設定されていたAPCの上限も撤廃され、代わりに価格の透明性確保を求めるにとどまった。さらに、従来型の購読誌についても、機関リポジトリに著者最終稿を公開することが認められるなど、運用は大きく柔軟化された。
このように、プランSは現実的な調整の中で一定の妥協点を見いだしつつ、「すべての学術論文を最終的にOA化する」という基本方針は維持した点で、当初は一定の評価を受けていた。しかし、2021年の施行から5年が経過した現在から振り返ると、これら一連の譲歩は結果として制度の実効性を弱める要因となった可能性がある。
次稿では、プランS施行後の経過とその帰結について紹介する。
船守美穂(国立情報学研究所情報社会相関研究系准教授、鹿児島大学附属図書館オープンサイエンス研究開発部門特任教授〔クロアポ〕)[論文の即時OA化][プランS][転換契約][APC]