本連載では、学術雑誌の購読と論文出版に関わる費用を巡り、商業出版社とアカデミアとの間で攻防が繰り広げられてきたことを紹介してきた。①出版社が学術雑誌の購読料をつり上げると、②アカデミアは論文をインターネット上でオープンに出版できる手段〔オープンアクセス(OA)誌の創設、リポジトリを通じた著者最終稿の公開〕を用意して対抗した。③これに対し出版社が、購読誌において論文掲載料(APC)を支払った論文のみをOA化できるハイブリッド誌の提供を開始し、購読料とAPCの二重取りが問題となった。④アカデミアは、購読料とAPCの双方を学術機関が負担する「転換契約」を通じて、ハイブリッド誌を含むすべての学術雑誌を2020年までにOA化する目標(OA2020)を掲げ、運動をさらに発展させた。
もっとも、こうした攻防を紹介してきたとはいえ、アカデミアの抵抗は必ずしも十分な成果を上げてきたとは言えない。出版社に一定の影響を与ええたのは、研究助成機関が加勢し、強制力が働いた場合に限られる。②の動きの際には、米国では国立衛生研究所(NIH)がリポジトリPubMed Centralを設置し、論文出版後半年以内の登録を義務づけたことでグリーンOAが進展した。また、英国など欧州では、研究助成機関がAPCを負担したことでゴールドOAが拡大した。④のOA2020についても、以下に紹介するように、研究助成機関の関与があって初めて実効性が生じたことになる。
2018年9月、欧州の11の研究助成機関が「プランS」を発表し、世界に衝撃を与えた。公的資金による研究成果は速やかに納税者へ還元すべきだとの立場から、助成を受けた論文の即時OA化を義務づけるとしたのだ。さらに、ハイブリッド誌への掲載は原則認めず、OA誌についても、APCに上限を設けるとした。学術雑誌の約4割を占めるハイブリッド誌に、事実上の廃刊宣告を突きつけたに等しい内容であった。
しかし、この強硬策にはアカデミア内部からも戸惑いと異論が生じた。OA誌は比較的、新興の媒体が多く、権威性が十分とは言いがたい。研究者は、自身の論文が掲載された学術雑誌の権威性によってキャリアを左右される以上、投稿先を事実上限定されることは深刻な問題を引き起こす。しかも、OA誌は全体の1〜2割程度にとどまり、投稿が集中すれば雑誌運営に支障が出るのは明らかである。
こうした多様な反論を受け、プランSは現場の声をふまえた調整を余儀なくされた。次稿では、改訂後のプランSについて紹介したい。
船守美穂(国立情報学研究所情報社会相関研究系准教授、鹿児島大学附属図書館オープンサイエンス研究開発部門特任教授〔クロアポ〕)[論文の即時OA化][プランS][研究評価]