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高齢者の認知症に伴う焦燥感と不眠×加味帰脾湯[漢方スッキリ方程式(110)]

登録日: 2026.04.28 最終更新日: 2026.05.08

原田唯成 (医療法人新生会 いしいケア・クリニック院長)

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加味帰脾湯は,虚弱な体質における不眠,不安,健忘,食欲低下などに用いられる代表的な補剤である1)2)。高齢者,とくにフレイルやサルコペニアを伴う症例では,「心身両面の消耗」を背景とした症状が目立つが,本方はそのような状態に適している。

構成生薬には,人参・黄耆・白朮などの補気薬に加え,当帰・竜眼肉といった補血薬,さらに精神安定に寄与する遠志や酸棗仁が含まれる。これにより「気血両虚」を補いながら,心神を安定させる働きを持つ1)

認知症のBPSDの中でも焦燥や不穏,夕暮れ症候群のような「落ち着かなさ」は,単なる中枢神経の過活動だけでなく,疲弊や不安,環境への適応困難などが複雑に絡み合っていることが多い。加味帰脾湯はこれらに対して「整える」方向で作用する点が特徴である。

全身状態を整えながら症状を緩和

類似の場面で用いられる漢方として抑肝散が挙げられるが,抑肝散は比較的体力が保たれている症例や,易怒性・興奮が前景に出る症例に適する。

認知症に伴う焦燥や不穏に対しては,抗精神病薬の使用も検討される3)。近年では,ドパミンD2受容体部分作動薬であるブレクスピプラゾール(レキサルティ®)が用いられる場面も増えている。本薬は「落ち着かせる」効果が前面に出る一方で,食欲低下や全体的な活気の低下につながることもあり,とくにフレイルやサルコペニアを伴う高齢者では慎重な投与が求められる。

加味帰脾湯は,全身の衰弱や食欲低下,不眠を伴う症例により適しており,気血両虚を背景とした不安・不眠・焦燥に対し,全身状態を整えながら症状を緩和する点に特徴がある。「元気がない中での不穏」に向いており,すなわち,鎮静による制御ではなく,回復方向への調整といえる。抗精神病薬導入後に過鎮静や嚥下機能低下が問題となる場合には,減量と併せて加味帰脾湯へ切り替える,あるいは併用することで全体のバランスをとるといった工夫も有用である。

また,本症例のように夕食後1回投与とする工夫も実臨床では有用である。酸棗仁を含むため,夜間の入眠改善を期待でき,日中の過度な眠気を避けやすい。多剤併用を避けたい在宅医療の現場において「夜に効かせる一手」として位置づけやすい。

在宅医療においては「どれだけ」だけでなく「どのように」落ち着くかが重要である。生活機能や食事,コミュニケーションを保ちながらの安定と,見守りなど「介護負担の軽減」が重要なアウトカムとなる。加味帰脾湯は,患者と介護者双方に穏やかな変化をもたらす選択肢の一つとして活用の余地が大きいと考えられる。


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