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FOCUS:急性期からの栄養療法~入院2週間でできること

登録日: 2026.04.10 最終更新日: 2026.04.20

泉野浩生 (長崎大学病院高度救命救急センター/医療教育開発センター特定教授/ 栄養管理センター副センター長)

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長崎大学病院高度救命救急センター/医療教育開発センター特定教授/ 栄養管理センター副センター長
泉野浩生
2005年長崎大学医学部卒業。長崎大学病院腫瘍外科入局後,長崎県では稀少な救急医をめざし,関西医科大学附属滝井病院救急医学科・高度救命救急センターへ異動し,救命救急センターNST長として活動を開始。2011年より長崎大学病院高度救命救急センター,2015年よりりんくう総合医療センター・大阪府泉州救命救急センターにて重症患者の栄養療法に関する経験と臨床現場の悩みに応える講演の機会を重ねる。2018年より長崎大学病院高度救命救急センターに復帰し,同院NST長に就任。2022年より『日本版重症患者の栄養療法ガイドライン2024』の作成に携わり,2023年より同院医療教育開発センター特定教授,2025年より同院栄養管理センター副センター長を兼任。「栄養は治療のジョーカー」をコンセプトに,個々の患者に対するベストカード,ベストテーブルをめざし取り組んでいる。
私が伝えたいこと
まずフェーズ,次にカロリー:「病態がどの段階か」を押さえることで,過剰栄養と栄養不足を同時に避けられます。
ENで攻めて,PNで支える:まず経腸栄養(EN)を最適化し,足りない分を経静脈栄養(PN)で補うのが基本戦略です。
1週目は守り,2週目から攻める:前半はoverfeedingを避け,炎症が落ちついたら,エネルギーとタンパク質をしっかり補うという発想が重要です。
「生きる」から「生き抜く」まで支える栄養:救命だけでなく,退院後の身体機能と社会復帰まで見据えた栄養戦略が求められます。

❶ はじめに

2025年9月,日本集中治療医学会より『日本版重症患者の栄養療法ガイドライン2024』(以下,The Japanese Critical Care Nutrition Guideline 2024:JCCNG2024)1が公開されました。本ガイドラインは,2022年に招集されたコアメンバーを中心に,日本集中治療医学会会員約100名が参画して策定されたものです。本ガイドラインは,和文,英文2,および和文ダイジェスト版3の3つのバージョンが作成されています。和文版は国内の臨床現場に即した詳細な解説を担い,2016年版にはなかった英文版は国際的な情報発信を意識した構成となっています。ダイジェスト版は,エッセンスと基礎知識をコンパクトにまとめており,単なる翻訳や要約にとどまらない点が特徴です。

タイトルには「重症患者」とありますが,示されている考え方の多くは急性期病院全体に共通するものであり,回復期病院に向けたメッセージも含まれています。ここ10年余りで栄養療法は,「とりあえず栄養を入れる」という受動的な姿勢から,「治療戦略の一部として栄養を組み込む」能動的なアプローチへと位置づけが変化してきました。JCCNG2024は,こうした流れを言語化したガイドラインと言えます。

本稿では,

①ガイドライン改訂に至る背景

②ガイドラインの内容の実際〔集中治療室(ICU)入室後2週間という時間軸に沿った整理〕

③実際の活用と今後の方向性

の3点について概説します。

これにより,「急性期からの栄養療法~入院2週間でできること」を具体的にイメージしやすい形でまとめます。

❷ ガイドライン改訂に至る背景

(1) 急性期栄養療法をめぐる環境の変化

急性期における栄養療法の考え方は,この15年間で大きく変化してきました。その転換点となったのが,2011年に報告されたEPaNIC trial4です。この研究では,早期の経静脈栄養(parenteral nutrition:PN)や過剰エネルギー投与(overfeeding)が,感染性合併症やICU滞在日数の増加と関連する可能性が示されました5。これらの結果は,それまで主に欧州で行われていた「早期からPNで不足分を補う」という考え方の見直しをせまるものであり,その後の国際ガイドラインの方針変更にもつながっています。

同じ頃から,集中治療後症候群(post intensive care syndrome:PICS)の概念が提唱されました。PICSは,ICU在室中から退室後にかけて生じる身体機能障害・認知機能障害・精神機能障害(患者家族も含む)の複合体として注目されており,長期的な生活の質(QOL)を左右する重要なテーマとなっています6。重症患者は,原疾患そのものに加えて,人工呼吸器管理,鎮静・鎮痛,安静・抑制による廃用,感染隔離による活動制限,絶飲食など,治療に伴う二次的な影響を受けやすく,深刻な栄養障害や筋肉量減少のリスクにさらされています。ICU入室後のごく短期間で筋肉量が有意に減少することが示され,リハビリテーションと栄養を組み合わせた介入が注目されるようになりました78。このような背景から,ICU滞在日数や28日死亡率といった短期アウトカムに加え,退院1年後の身体機能や社会復帰といった長期アウトカムを評価する研究が増加しています。また,生存率の向上に伴い,「救命」に続く「QOL」を重視する流れが,さらに加速しています。

一方,日本では診療報酬改定によって,急性期から栄養とリハビリテーションを一体的に行う介入が制度として求められるようになったことも大きな変化です。「早期栄養介入管理加算」と「早期離床・リハビリテーション加算」が新設され,高齢社会における「早期回復・社会復帰」を目標に,急性期病院での早期介入が評価されるようになりました。さらに令和4年度の診療報酬改定では,これらの加算がICU以外のケアユニットにも拡大され,「入院栄養管理体制加算」も見直されました。加えて,医師の働き方改革に伴うタスクシフト・タスクシェアが進む中で,管理栄養士が病棟で活動するための基盤が整備されてきました。また,栄養管理体制を強化するほど評価が高くなる仕組みも拡充され(1),ICUから在宅・社会復帰までを見据えたシームレスな栄養療法や,多職種での栄養介入,急性期病院と回復期・療養型病院との情報連携が,さらに重要視されるようになっています。

早期PNとoverfeedingの落とし穴
ICU入室直後からPNで目標エネルギーを満たす戦略は,感染性合併症の増加やICU滞在日数の増加と関連することが示されています。重要なのは「早く100%に到達させる」ことではなく,急性期は無理をせず守り,回復期に向けてしっかり詰めていくという時間軸での考え方です。

(2) 国際ガイドラインとの相違と日本の事情

こうした変化の中で,現場における標準的な参考書として用いられてきたのが,『日本版重症患者の栄養療法ガイドライン2016』9です。早期栄養介入管理加算の算定要件として,本ガイドラインへの準拠が明記されたことにより,同ガイドラインは学術的指針であると同時に,診療報酬と直結した実務ツールとしての性格も併せ持つようになりました。

国際的には,米国静脈経腸栄養学会(American Society for Parenteral and Enteral Nutrition:ASPEN)と米国集中治療医学会(Society of Critical Care Medicine:SCCM)が作成した『ASPEN/SCCMガイドライン』(2016年版10,2022年版11)および欧州臨床栄養代謝学会(European Society for Clinical Nutrition and Metabolism:ESPEN)による『ESPENガイドライン』(2018年版12,2023年版13)が,重症患者の栄養療法に関する代表的なガイドラインとされています。しかし,ASPEN/SCCMガイドラインとESPENガイドラインの間でも,推奨内容や解釈が異なる項目は少なくありません。また日本には,独自の診療報酬制度,薬事承認の状況,管理栄養士の人数や院内での役割,さらに,患者の体格や食文化など,欧米とは異なる前提条件もあります14。JCCNG2024は,引用文献の多くを海外の研究データに依拠しながらも,こうした時代背景や日本特有の診療状況をふまえて作成された,いわば「MADE FOR JAPAN」のガイドラインです。そのため,国内の臨床現場によりなじみやすい内容となっています。

さらに,日本集中治療医学会と日本救急医学会による『日本版敗血症診療ガイドライン』では,2020年版までは栄養管理の章が設けられていましたが,2024年版からは,他領域のガイドラインで十分に扱われている臨床疑問は採用されなくなり,栄養管理に関する項目は省略されました15。一方で,JCCNG2024に採用されたランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)の多くには敗血症症例が多数含まれており,敗血症を含む重症患者全体の栄養方針は,JCCNG2024において包括的にカバーされる構造となっています。

(3) 2016年版からの主な変化

今回のガイドライン改訂で最も大きな変更点は,Grading of Recommendations,Assessment,Development and Evaluation(GRADE)システムを正式に導入し,推奨作成プロセスの透明性を高めたことです。2016年版でも研究結果は丁寧に整理されていましたが,推奨の決定には専門家の判断を含めた総合的な評価が用いられていました。JCCNG2024では,他の多くのガイドラインと同様に,臨床疑問(clinical question:CQ)ごとにメタアナリシスおよびシステマティックレビューを実施しています。その上で,エビデンスの確実性を「高・中・低・非常に低い」の4段階,推奨の強さを「強い推奨・弱い推奨・弱い非推奨・強い非推奨」の4段階で明示しています(21。構成面では,2016年版で採用されていた「総論」と「各論」の2部構成を廃止し,CQを軸に4章構成へと再編されました。あわせて,従来は各論にまとめられていた内容が,それぞれのCQに収載されたことも,大きな変更点です。

成人では29項目のCQが設定されており,「強い推奨(行うことを強く推奨)」が3項目,「弱い推奨(行うことを弱く推奨)」が8項目,「弱い非推奨(行わないことを弱く推奨)」が8項目に整理されています。一方,小児では8項目のCQが設定され,「弱い推奨(行うことを弱く推奨)」が3項目,「弱い非推奨(行わないことを弱く推奨)」が2項目となっています。残りのCQのうち,倫理的理由からRCTの実施が困難であるものの,臨床的には実施すべきと判断される項目は,good practice statement(GPS)として扱われています。また,RCTの不足などにより統計解析が困難な項目については,background question(BQ)と位置づけられ,標準的知識の情報提供にとどめ,推奨・非推奨は付されていません。なお,「弱い非推奨」とは,「現時点では行わない方向を勧めるものの,その判断の根拠や確信度は強くない」ことを意味します。将来的にエビデンスが蓄積されたり,価値観の整理が進んだりすることで,推奨の方向や強さが変化する可能性があるため,解釈には注意が必要です。GRADEシステムでは,原則として「推奨」か「非推奨」のいずれかを示す必要があります。そのため,JCCNG2024における「弱い非推奨」は,「推奨できるほどのエビデンスが,現時点では不足している項目」「推奨根拠や実施に関わる検討事項を読んだ上で判断すべき項目」ととらえると,わかりやすいかもしれません。

システマティックレビューで採用された基本評価項目(アウトカム)も見直され,従来の死亡率,ICU滞在日数,感染性合併症などに加えて,「退院時または退院後1年までの身体機能」や「入院期間中または退院後の筋肉量変化」が主要評価項目として追加されています(31。これは,長期予後・機能予後を重視し,PICSやサルコペニア(筋肉減少症)を意識した設計であり,栄養療法ガイドラインならではの特徴と言えるでしょう。

さらに,栄養ケアプロセスを反映したフローチャートが掲載されており,栄養評価から投与経路・投与量の決定,モニタリングまでの一連の流れが示されています(41

また,CQのカテゴリー分類や推奨度の強さも視覚的に区別されているため,多職種での共通認識が形成されやすく,栄養療法の標準化やチーム運用の推進にもつながると考えられます。

関連書籍 症例から学ぶPICSの予防と早期介入:西田 修・小谷穣治監修/井上茂亮編著,B5判,288頁。PICSの概念など総論的な内容にとどまらず,PICSの評価法,予防と早期介入,PICSの症例を紹介し,具体的・実践的にまとめました。集中治療医,救急医,麻酔科医,その他の診療科の医師,看護師,理学療法士,作業療法士,薬剤師,管理栄養士,歯科医師など,PICSを診るすべての医療従事者におすすめの1冊!

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