●ハンタウイルス肺症候群とは1)
ハンタウイルス肺症候群は,特定のげっ歯類(ネズミなど)を自然宿主とするハンタウイルスによって引き起こされる,重篤な急性呼吸器感染症です。主な感染経路は,ウイルスを保有するげっ歯類の尿,糞,唾液によって汚染された粉塵の吸入,あるいはそれらとの直接接触で,稀に咬傷を介してヒトに伝播します。現在のところ,ヒトからヒトへの感染は報告されていません。
潜伏期間は通常1〜5週間(平均約2週間)と推定されています。診断は,患者の血液や組織からのウイルス遺伝子の検出(RT-PCR)や,血清を用いた抗体検査(ELISA法など)を組み合わせて行われます。
症状の経過は急激で,初期には発熱,筋肉痛,悪寒といったインフルエンザ様の「前駆症状」が現れます。これに伴い,頭痛,めまい,嘔気・嘔吐,下痢などの消化器症状がみられることも多くあります。発症から数日(4〜10日程度)経過すると,急激に病状が進行し,咳や重度の呼吸困難を特徴とする状態へと移行します。重症例では発症後24時間以内に死亡することもあり,致死率は約40〜50%と非常に高いのが特徴です。
現在のところ,本疾患に対する特異的な治療法やワクチンは存在せず,集中治療室(ICU)での人工呼吸器管理などの対症療法が中心となります。
日本では,感染症法において4類感染症に指定されています。国内での発生例はまだ報告されていませんが,診断した医師は,直ちに最寄りの保健所に届け出る義務があります。
●台湾からハンタウイルス肺症候群の報告2)
台湾衛生福利部疾病管制署(台湾CDC)は2026年1月30日,同国内で今年初となるハンタウイルス肺症候群の確定症例と,それによる死亡例を報告しました。これを受け,市民に対して旧正月の清掃時期に合わせたネズミ対策の徹底を呼びかけました。
患者は,台湾北部に居住する基礎疾患を有する70歳代の男性です。2026年1月上旬に呼吸困難,発熱,消化器症状(嘔気など)が現れ,救急受診しました。翌日に症状が悪化してICUに収容されましたが,敗血症と多臓器不全により1月13日に死亡しました。1月22日の検査でハンタウイルス感染が確認されました。患者に海外渡航歴はなく,主な活動場所は自宅でした。家族の証言や調査により,自宅内にネズミの活動痕跡が確認されました。家族内から4名の濃厚接触者が特定され,同居家族1名が咳症状を発症しましたがハンタウイルス検査は陰性で,残る3名の接触者は無症状でした。1月27日までに実施された全追跡検査は陰性でした。自宅周辺で捕獲されたネズミ4匹のうち2匹からハンタウイルス抗体の陽性反応が出たため,自宅周辺での感染と断定されました。
●予防策:「防鼠三不」の徹底2)
台湾CDCは,感染予防のために次の「3つの“ない”」を推奨しています。
・「入れない」:ネズミが侵入しそうな隙間などを塞ぐ。
・「住まわせない」:家周りのゴミを整理し,巣をつくらせない。
・「食べさせない」:生ゴミなどを適切に処理する。
ネズミ対策が重要です。
【文献】
1) 国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト:ハンタウイルス肺症候群(詳細版). (2026年2月21日アクセス)
2) 台湾CDC:ハンタウイルス肺症候群の確認. (2026年2月21日アクセス)

石金正裕 (国立国際医療研究センター病院国際感染症センター/ AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)
2007年佐賀大学医学部卒。感染症内科専門医・指導医・評議員。沖縄県立北部病院,聖路加国際病院,国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP)などを経て,2016年より現職。医師・医学博士。著書に「まだ変えられる! くすりがきかない未来:知っておきたい薬剤耐性(AMR)のはなし」(南山堂)など。