プロカルシトニン(procalcitonin:PCT)は,初期の段階では全身性細菌感染症の早期発見のための有望なバイオマーカーとして,その有用性が大いに期待されています。以下に,PCTに関する議論の変遷をまとめました。
(1)2000年代前半
PCTを抗菌薬投与のガイドに用いる臨床研究が散見されるようになった。特に呼吸器感染症におけるPCTアルゴリズム試験が注目され,2004年にLancet誌に投稿されたChrist-Crainらの報告24)では,市中肺炎など下気道感染症患者においてPCT値に基づき抗菌薬治療の開始/中止を判断することで,転帰を悪化させることなく抗菌薬の使用を大幅に減少させる可能性が示唆された。このような結果から,PCTは診断目的としてだけではなく,抗菌薬中止のタイミングを判断するツールとして注目されるようになった。
(2)2009~10年
PCTガイド療法の有用性を示す初の大規模RCTが2009年に報告されるなど,PCTガイド療法に基づく治療期間短縮に関する研究が多数みられるようになった25)26)。
(3)2011〜13年
2010年代前半には,複数のメタアナリシスやシステマティックレビューが相次いで行われ,個々の試験を統合したエビデンスが蓄積された。2013年にSchuetzらは,急性呼吸器感染症(acute respiratory infection:ARI)患者のデータに基づくシステマティックレビューを行い,PCTアルゴリズムまたは通常のケア/ガイドラインに基づく抗菌薬治療を受けたARIの成人参加者を対象として,30日時点の全死亡率と治療失敗率について検討した。結果,ARI患者において抗菌薬治療の開始および治療期間の指標としてPCTを用いることは,死亡率の上昇や治療失敗に関連しなかった。また,抗菌薬の使用量は,様々な臨床環境や呼吸器感染症診断にかかわらず,有意に減少したとしている27)。
このような流れを受けて,各国の抗菌薬適正使用プログラムにPCTが組み込まれるようになった。
(4)2016年
これまでに述べられてきたPCTガイド療法のメリットは,30日予後や治療失敗率が従来の方法に比べて非劣性,かつ副作用の発生率低下というものが主であった。しかし,2016年の敗血症治療中の患者に対する研究で,PCTガイド療法群は抗菌薬投与期間の中央値を標準治療群の7日から5日へと有意に短縮した。さらに注目すべきは,28日死亡率がPCTガイド療法群20%vs. 標準治療群25%(P=0.0122)と有意な低下が認められた。
このSAPS試験の成功は,「PCTガイド療法は患者の予後をも改善しうる」との見方を強め,以降のガイドライン改訂やメタ解析にも大きな影響を与えた。
(5)2019~21年
2020年前後となると,診断あるいは抗菌薬開始の判断にPCTを用いることには一定の懸念が生じるようになった。2019年の米国感染症学会(IDSA)/米国胸部学会(ATS)の市中肺炎ガイドラインでは,PCTの使用に関して,「Not recommended to determine need for initial antibacterial therapy(初回抗菌薬療法の必要性を判断するためには推奨されない)」ことが示された29)。
また,敗血症治療の国際ガイドラインであるSurviving Sepsis Campaign Guidelines(SSCG)2021年改訂30)でもPCTに関する勧告がアップデートされ,「感染症が疑われる敗血症患者の初期治療において,抗菌薬開始の判断にPCTなどのバイオマーカーを追加利用しないこと」が弱い推奨として提示された。これはPCTを利用した初期投与に関する3つのRCT(ProACT試験など)の解析で,抗菌薬初期投与の有無による短期予後(死亡率,入院期間など)に差がなかったことによる。
以上のように,近年のガイドラインでは,「抗菌薬開始」についてはPCTガイド療法には一定の限界があり,他の臨床的要素を十分加味した上で治療を行うべきとの見解に収束しつつある。一方,「抗菌薬中止」についてはPCTを活用し,抗菌薬投与期間の短縮化を図る戦略がより推奨される方向となった。
(6)~現在
PCTガイド療法の研究はさらに進展し,2021年にはギリシャからPROGRESS試験が報告され31),PCTアルゴリズムにより,長期的な感染症関連有害事象(Clostridioides difficile感染症や多剤耐性菌感染症)の減少や医療費削減,28日死亡率の有意低下につながることが示唆された。
また,敗血症の疑いがある入院中の重症成人に対しては,従来より感染症のバイオマーカーとして広く用いられてきたCRPやPCTのモニタリングプロトコールが,抗菌薬投与期間を決定する上で役立つとされてきた。しかし,これらのプロトコールの効果と安全性に関する明確なエビデンスは依然として不十分であった。そこで,2025年にDarkらは,CRPまたはPCTの評価に基づく処方の決定が,抗菌薬投与期間の短縮につながるかどうかを検討した(ADAPT-Sepsis試験)。本試験では,41施設のICUを対象に,PCTガイド療法群,CRPガイド療法群,標準治療群の3群を比較検討している32)。
以上の知見をふまえると,PCTは過去20年間で抗菌薬の適正使用を支援する重要なツールとして,大きく発展してきたと言える。その有用性は,多数のRCTおよびメタ解析により裏づけられており,特に不必要な抗菌薬の開始を抑制し,早期中止を可能とすることで,抗菌薬曝露の削減に一貫した効果を示している。一般的な治療期間に関する知見をふまえた上で,個々の症例に応じて臨床的要素を十分に考慮しながらPCTを活用することは,抗菌薬使用期間の最適化に大きく貢献するものと考えられる33)。
なお,PCTガイド療法に基づき抗菌薬の適応を判断する場合,既報では表6のプロトコールを用いて検討が行われており,おおむねPCT 0.25~0.5µg/Lを基準に抗菌薬中止を検討することが妥当と考えられる。

【文献】
24) Christ-Crain M, et al:Lancet. 2004;363(9409):600-7.
25) Bouadma L, et al:Lancet. 2010;375(9713):463-74.
26) Schuetz P, et al:JAMA. 2009;302(10):1059-66.
27) Schuetz P, et al:Evid Based Child Health. 2013;8(4):1297-371.
28) de Jong E, et al:Lancet Infect Dis. 2016;16(7):819-27.
29) Metlay JP, et al:Am J Respir Crit Care Med. 2019;200(7):e45-67.
30) Evans L, et al:Crit Care Med. 2021;49(11):1974-82.
31) Kyriazopoulou E, et al:Am J Respir Crit Care Med. 2021;203(2):202-10.
32) Dark P, et al:JAMA. 2025;333(8):682-93.
33) Derrick A, et al:StatPearls. Last Update April 23, 2023.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK539794/#:~:text=PCT%20should%20not%20be%20used,23
※この記事は,FOCUS「抗菌薬いつやめる? 適切な投与期間の考え方」の一部を抜粋・編集したものです。