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ALSの患者に「自然に看取ってほしい」と言われた場合[たんぽぽ先生の〈パターンで考える〉在宅医療の実践(19)]

登録日: 2026.03.19 最終更新日: 2026.03.19

永井康徳 (医療法人ゆうの森たんぽぽクリニック)

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筋萎縮性側索硬化症(ALS)は進行性の神経変性疾患であり,その治療にあたり,患者さんとご家族は,困難な選択をせまられます。特に,終末期における人工呼吸器装着の可否,人工栄養法の選択,そして「自然な看取り」の希望は,医療者にとっても重い課題となります。在宅医療の現場では,患者さんの意思決定支援が重要な役割を占めています。ALS患者さんにおいては,病気の進行とともに意思疎通が困難になる可能性があるため,意思表示が可能な段階での丁寧な対話と意思確認が不可欠です。

今回は,たんぽぽクリニックが経験した複数のALS患者さんの事例を通じて,「自然な看取り」を希望する患者さんとそのご家族に対する在宅医療での支援のあり方について考えてみます。患者さんの意思を尊重しつつ,ご家族の気持ちに寄り添い,最期まで安心して過ごせる環境を整えるための実践的なアプローチをご紹介したいと思います。

Case 1:延命を希望しないという選択

ハルカさん(78歳,仮名)は,入院していた病院でALSの病名告知を受けましたが,予後や今後の生活について,具体的な説明は受けていませんでした。たんぽぽクリニックへの紹介時,連携する急性期病院から「患者さんが人工呼吸器を装着しないのであれば受け入れ不可」との回答があり,初診時から厳しい状況での意思決定をせまられることになりました。

当院での初診時,ハルカさんの状態はきわめて悪化しており,主治医はご家族に対して,次のように説明しました。「現在の状態は非常に悪く,入院するかどうか,人工呼吸器についてどうするのか,今日中に方針を決めなければいけません。命に関わることを,こんなに急いで決めなければいけないというのは,とてもきついことですし,つらいお気持ちであると思いますが,お母さんに関する大事な決断なのです」。これに対して,ご家族である長女と次女は,「私たちから母に聞くことはできません。先生から説明をお願いします」と答えました。

医師がハルカさんに,人工呼吸器を装着するかどうか尋ねたところ,ハルカさんはすぐに手で「×」のジェスチャーをしました。点滴,酸素吸入,苦痛時の鎮静薬使用についても,同様に「×」と意思表示をしました。次女は,「母の意思は変わらないと思います。ずっと変わらないんです……」と涙ながらに話しました。

ハルカさんは入院中,「早く楽になりたい。死にたいです。今まで幸せでした」という手紙を,ご家族に宛てて書いていました。この手紙からは,娘さんたちに迷惑をかけたくないという気持ちと同時に,「家族のそばにいたい。最期はわが家で死にたい」という強い想いが伝わってきました。自宅での療養体制を整えるまでの数日間,ハルカさんは当院の病床「たんぽぽのおうち」に入院しましたが,その間も,いつも「早く家に帰りたい」と訴えていました。ハルカさんは言葉でも,筆談でも,手の動きでも,「自分に延命は不要です」という意思を一貫して伝えていました。自分の意思が通じるうちに,自分の人生の終い方を決めたいと思っているようでした。

そして退院後,自宅にいた娘さんたちから「母が息をしていないようです」という連絡を受けて主治医が駆けつけたとき,ハルカさんは既にお亡くなりになっていました。2人の娘さんとゆっくりお別れの時間をとったあと,きれいな紫色のパジャマに着替えられたそうです。

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