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FOCUS:めまい治療の薬剤選択のコツ〈西洋薬と漢方薬の実践的使いわけ〉

登録日: 2026.03.13 最終更新日: 2026.03.13

新井基洋 (横浜市立みなと赤十字病院めまい・平衡神経科部長)

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横浜市立みなと赤十字病院めまい・平衡神経科部長
新井基洋
1989年北里大学医学部卒業。北里大学病院,国立相模原病院,横浜赤十字病院,横浜市立みなと赤十字病院耳鼻咽喉科部長を経て,現職。耳鼻咽喉科専門医,日本めまい平衡医学会相談医・代議員,バラニー学会会員。めまい・平衡障害診療を専門とし,前庭リハビリテーション,慢性・難治性めまい,前庭性片頭痛,フレイルを合併した高齢者めまいの診療・研究に長年携わる。漢方薬治療と前庭リハビリテーションの併用療法に関する臨床研究・著書も多数。Best Doctorsに3期6年選出されている。
私が伝えたいこと
◉西洋薬の抗めまい薬は,1974年のジフェニドール塩酸塩の登場以降,新薬の開発がほとんど進んでおらず,わが国では約50年にわたり新たな治療薬が上市されていない。
◉めまいの薬物治療には新たな取り組みや見直しの余地があり,めまいの適応を有する漢方薬に活路を見出せると考えている。一方で,「証」を診るという点が大きな壁となっている。
◉そこで本稿では,『メニエール病・遅発性内リンパ水腫診療ガイドライン 2025年版』をもとに,病期別・疾患別に提案可能な薬物治療の選択肢を整理した。

❶ はじめに

めまいは薬物治療が基本である。代表的な薬物治療には,西洋薬の抗めまい薬,内耳循環改善薬,漢方薬,抗不安薬や抗うつ薬がある1。一方で,外来診療において同一の抗めまい薬を漫然と処方し続けている現状に対する指摘も散見される。この背景には,西洋薬の抗めまい薬は,1974年のジフェニドール塩酸塩の登場以降,新規薬剤がほとんど開発されていないという事情がある1。すなわち,わが国では約50年にわたり新しい抗めまい薬が上市されていない。さらに,ストレス社会および高齢化社会の進展により,めまいの病態自体も変化してきた。バラニー学会では2009年以降,不安定性めまいを含む遷延性の慢性めまいが定義され,高齢者のふらつきも含めて臨床上の課題となっている。高齢者では薬剤の安全性への配慮が特に重要であるが,効果と安全性を兼ね備えた抗めまい薬は限られている。一部のめまい疾患では,薬物療法に関するエビデンス自体が乏しく,疾患や経過に応じた明確な使いわけの基準も十分に示されていない。その結果,薬剤選択は医師の経験に依存するところが大きい。以上から,めまいの薬物治療には新たな視点からの整理や見直しの余地がある。抗めまい薬として適応を持つ漢方薬に活路を見出そうとする試みもあるが,「証」を診るという点が大きな障壁となっている。

そこで本稿では,『メニエール病・遅発性内リンパ水腫診療ガイドライン 2025年版』2と武田憲昭先生の『抗めまい薬のEBM』3をもとに,病期別・疾患別に提案可能な薬剤を1にまとめた。メニエール病と前庭神経炎については,治療薬剤の推奨度を2に提示した。西洋薬で治療抵抗性を示し,漢方薬に移行する際の疾患別漢方薬選択の提案を3にまとめた。病期を考慮せず,疾患別のめまい西洋薬の提案一覧を4に記載した。ガイドラインがなく整備されていないめまい疾患における西洋薬の選択については,14を参照して頂きたい。また,めまいに効能・効果を有する医療用漢方薬を5にまとめた。さらに,薬剤使用が提案される場合は○,提案できないときは―,どちらとも言えない場合は△とした。なお,今回取り上げるめまいに対する漢方薬は,「めまい」を効能・効果として有する薬剤に限定している。

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めまい疾患をA~Q〔A:メニエール病,B:前庭神経炎,C:起立性調節障害,D:持続性知覚性姿勢誘発めまい(persistent postural-perceptual dizziness:PPPD),E:加齢性前庭障害,F:高齢者の平衡障害,G:前庭性片頭痛,H:遅発性内リンパ水腫,I:良性発作性頭位めまい症(benign paroxysmal positional vertigo:BPPV),J:めまいを伴う突発性難聴,K:ラムゼイ・ハント症候群,L:外リンパ漏,M:更年期障害に伴うめまい,N:動揺病(乗り物酔い),O:前庭性発作症(旧:神経血管圧迫症候群),P:頚性めまい,Q:椎骨脳底動脈循環不全症〕として分類し,本文ではこの順で紹介し,治療薬剤を記載した。

本稿は基本的に薬物治療のみに焦点を絞った内容であり,各めまい疾患の定義については,スキルアップとして前庭性片頭痛のみを詳細に紹介するにとどめた。ページ数の制約もあり,他のめまい疾患については簡潔に要点のみを示している。

めまいのガイドライン
現在,めまい領域で治療までふみ込んだガイドラインが整備されているのは,メニエール病とBPPV,平衡訓練に限られている。一方,前庭神経炎,前庭性片頭痛,PPPD,加齢性前庭障害などについては,主に診断基準が示されているのみで,薬物治療の標準的な指針は明確ではない。その背景には,新規治療薬の不足,RCTの少なさ,前庭リハビリテーションが十分に保険収載されていないこと,比較的新しい疾患概念であることなどが挙げられる。めまい治療は,現在も発展途上の分野と言える。

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