
❶ はじめに
めまいは薬物治療が基本である。代表的な薬物治療には,西洋薬の抗めまい薬,内耳循環改善薬,漢方薬,抗不安薬や抗うつ薬がある1)。一方で,外来診療において同一の抗めまい薬を漫然と処方し続けている現状に対する指摘も散見される。この背景には,西洋薬の抗めまい薬は,1974年のジフェニドール塩酸塩の登場以降,新規薬剤がほとんど開発されていないという事情がある1)。すなわち,わが国では約50年にわたり新しい抗めまい薬が上市されていない。さらに,ストレス社会および高齢化社会の進展により,めまいの病態自体も変化してきた。バラニー学会では2009年以降,不安定性めまいを含む遷延性の慢性めまいが定義され,高齢者のふらつきも含めて臨床上の課題となっている。高齢者では薬剤の安全性への配慮が特に重要であるが,効果と安全性を兼ね備えた抗めまい薬は限られている。一部のめまい疾患では,薬物療法に関するエビデンス自体が乏しく,疾患や経過に応じた明確な使いわけの基準も十分に示されていない。その結果,薬剤選択は医師の経験に依存するところが大きい。以上から,めまいの薬物治療には新たな視点からの整理や見直しの余地がある。抗めまい薬として適応を持つ漢方薬に活路を見出そうとする試みもあるが,「証」を診るという点が大きな障壁となっている。
そこで本稿では,『メニエール病・遅発性内リンパ水腫診療ガイドライン 2025年版』2)と武田憲昭先生の『抗めまい薬のEBM』3)をもとに,病期別・疾患別に提案可能な薬剤を表1にまとめた。メニエール病と前庭神経炎については,治療薬剤の推奨度を表2に提示した。西洋薬で治療抵抗性を示し,漢方薬に移行する際の疾患別漢方薬選択の提案を表3にまとめた。病期を考慮せず,疾患別のめまい西洋薬の提案一覧を表4に記載した。ガイドラインがなく整備されていないめまい疾患における西洋薬の選択については,表1と表4を参照して頂きたい。また,めまいに効能・効果を有する医療用漢方薬を表5にまとめた。さらに,薬剤使用が提案される場合は○,提案できないときは―,どちらとも言えない場合は△とした。なお,今回取り上げるめまいに対する漢方薬は,「めまい」を効能・効果として有する薬剤に限定している。







めまい疾患をA~Q〔A:メニエール病,B:前庭神経炎,C:起立性調節障害,D:持続性知覚性姿勢誘発めまい(persistent postural-perceptual dizziness:PPPD),E:加齢性前庭障害,F:高齢者の平衡障害,G:前庭性片頭痛,H:遅発性内リンパ水腫,I:良性発作性頭位めまい症(benign paroxysmal positional vertigo:BPPV),J:めまいを伴う突発性難聴,K:ラムゼイ・ハント症候群,L:外リンパ漏,M:更年期障害に伴うめまい,N:動揺病(乗り物酔い),O:前庭性発作症(旧:神経血管圧迫症候群),P:頚性めまい,Q:椎骨脳底動脈循環不全症〕として分類し,本文ではこの順で紹介し,治療薬剤を記載した。
本稿は基本的に薬物治療のみに焦点を絞った内容であり,各めまい疾患の定義については,スキルアップとして前庭性片頭痛のみを詳細に紹介するにとどめた。ページ数の制約もあり,他のめまい疾患については簡潔に要点のみを示している。
