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福島原発事故から15年,次世代に伝えたいこと[福島リポート(38)]

登録日: 2026.03.11 最終更新日: 2026.03.11

山下俊一 (福島県立医科大学副学長/福島国際研究教育機構第4分野副分野長)

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1. 福島活動の支柱

普段の生活のみならず,危機に遭遇した人生は,思いのままにならない四苦八苦の連続です。しかし,すべからく物事はそのとらえ方や理解の仕方次第で,不幸や災難も明日の糧とすることができると言われています。言い換えれば,ピンチをチャンスと前向きにとらえ,悲劇を奇跡に,そして進化に変えるという人生訓です。すなわち,立ちはだかるリスクは避けられないと覚悟すること,そして最大の眼目は,リスクをいかに低減・阻止,あるいは最小化するか,にあります。

私自身,チョルノービリ原発事故5年後から旧ソ連周辺3カ国への医療支援活動に従事し,事故から15年目に,小児〜思春期の甲状腺癌増加の原因として,事故当時の短半減期の放射性ヨウ素に汚染された食環境(乳幼児の汚染ミルク摂取)が示唆されることを明らかにしました1)2)。当時は,東西冷戦構造下の情報封鎖とソ連崩壊前後の時期であり,何事も現場での活動に基づく科学的・論理的思考が重要であること,そして流布されている内容を吟味することで先入観や偏見を払拭する大切さを学ぶことができました。しかし,当時のチョルノービリ医療支援活動の経験が,その後の福島第一原発事故(以下、福島原発事故)でまさか生かされるとは,夢想だにしていませんでした。

実は,放射線の健康影響を理解するためには,広島・長崎の原爆被爆の実相についての正しい理解が不可欠ですし,急性放射線障害(確定的影響,または組織反応)と晩発性健康影響(確率的影響)の違い,さらに外部被ばくと内部被ばくについても,科学的根拠に基づく放射線健康リスクの理解が求められます。その上で,国際機関が推奨している放射線防護の考え方である直線閾値なし関係(LNTモデル)を超えて,生活の質(quality of life:QOL)を含めた多面的な健康リスクのとらえ方をともに考えることが,きわめて重要となります。なぜなら,生きていること,あるいは生かされていること自体が,日常生活の中で様々なリスクにさらされていることを,そして何事にもグレーゾーンが存在することを再認識する必要があるからです。

戦後長らく,平和教育の一環として原爆被爆の非人道性教育と核兵器廃絶運動が実施されてきた経緯から,放射線リスクが突如として身近な現実となった福島原発事故では,原爆の記憶や凄惨なイメージが想起され,生命への直接的な脅威として恐怖や不安を感じることは,当時の混乱と情報不足の中では,誰にとっても避けがたい心理的反応であったと言えます。

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