転倒していない患者さんの下肢痛
先日、ある先生からお問い合わせを受けました。「施設に入所中でほぼ寝たきりの患者さんが、下肢の痛みを訴えており、同部位が腫れている。もしかすると骨折しているかもしれない」とのことでした。その患者さんは自ら離床することができず、転倒などは考えにくい状況でした。ただし、定期的に理学療法士によるリハビリテーションを受けているとのことでした。先生は、「念のため、担当した理学療法士にどのような処置を行ったか確認する」と話されていました。
近年、高齢化に伴い高齢者施設が増えています。理学療法の対象も、在宅から医療施設まで広がっており、医療施設内でも、集中治療の現場から回復期に至るまで、その活動の場は様々です。今回は、理学療法をめぐるインシデントやアクシデントについて、考えてみます。
数字で見るリハビリ現場のリスク
医療現場では、患者さんに対して実際に傷害が生じた事例(アクシデント)と、傷害には至らなかったヒヤリ・ハット事例(インシデント)を収集し、分析しています。
ある病院で、アクシデントの報告を部署別に集計したところ、看護部からの報告が半数以上と最も多く、ついで薬剤部が続きました。一方で、リハビリテーション部からの報告は全体の約3%と、低い傾向にありました。しかし近年、理学療法士が関与した医療事故が増加していると言われています。ある調査によると、理学療法士1人当たりの1年間のインシデント件数は0.75件、アクシデント件数は0.26件で、いずれも経験年数が3年以下の理学療法士に多いことが示されていました。
さらに、ある急性期病院の検討では、アクシデントの発生件数と理学療法士の経験年数との間に、有意な負の相関が認められました。また、経験3年以内の理学療法士を対象とした別の調査では、約60%が何らかのアクシデントを経験したことがあると報告されています。
少人数体制が抱える医療安全の課題
これらの報告から、経験が浅い理学療法士では、アクシデントが発生しやすい傾向があることがわかります。その背景として、現在の理学療法士の年齢構成では、若年者が大多数を占めていること、また、職場における理学療法士の人数が1~2人という施設が全体の約半数を占めていることが挙げられます。
たとえば訪問リハビリテーションなどで、1人の理学療法士が単独で患者さんを担当する場合には、インシデントやアクシデントが発生しても、他の職員に気づかれにくいことがあります。リハビリテーションに関連した職種によるアクシデントについて、その発見者を検討した報告では、当事者が約半数と最も多く、ついで同職種者が約1/3を占めていました。このことから、少人数体制では、インシデントやアクシデントが表面化しにくい可能性が考えられます。
チーム医療で患者さんの安全を守る
病院から在宅に至るまで、患者さんの安心・安全はチーム医療が担っています。インシデントやアクシデントは、他職種が気づくこともあります。すべての職種の方は、患者さんに接する中で何かおかしいと感じたときには、その気づきをチーム内で積極的に共有すべきです。そして、改善すべき点があれば、すぐに介入する必要があります。隠ぺいは厳禁です。