■桑島 巖(J-CLEAR理事長)〈司会〉
■甲斐久史(ヨコクラ病院総合診療部部長/ガイドライン作成委員・執筆委員)
■植田眞一郎(琉球大学大学院医学研究科臨床薬理学講座特任教授/ガイドライン執筆委員)
■石川譲治(東京都健康長寿医療センター循環器内科部長)
※座談会の模様(動画)はこちらよりご視聴下さい。
【桑島】「高血圧管理・治療ガイドライン2025(以下,GL2025)」1)が,2025年8月に発表されましたが,本座談会では「高血圧治療ガイドライン2019(以下,GL2019)」とどのように変わったか,あるいは変わらなかったかについて議論したいと思います。
降圧目標は年齢にかかわらず130/80mmHg未満
【桑島】GL2019では75歳以上の高齢者の降圧目標値を140/90mmHg未満と高めに設定していましたが,GL2025では年齢にかかわらず診察室血圧130/80mmHg,家庭血圧125/75mmHg未満となりました。この点が大きな変更点です。
【石川】75歳以上の高齢者においても130/80mmHgまで下げようというのは私も賛成です。ただ,家庭血圧の目標値が125/75mmHgと診察室血圧より一律に5mmHg低く設定されています。おそらく診察室血圧140/90mmHgが家庭血圧135/85 mmHgに相当するということで,目標値も5mmHgずつ引いたのだと思います。しかし,米国心臓協会(AHA)のガイドラインでは,診察室血圧も家庭血圧も130/80mmHgと同じにしています。血圧が下がると診察室血圧と家庭血圧の差も縮まるという考え方だと思います。私もAHAと同じように,家庭血圧も130mmHg目標でもよいのではないかと思います。
【桑島】確かに診察室血圧から5mmHgを引くというのは明確な根拠があるわけではありません。白衣高血圧を前提としているのでしょうが,家庭血圧のほうが高い仮面高血圧もありますので,一律に5 mmHgを引くというのは私も賛成しかねます。
フレイルな高齢者に関してはどうでしょうか。
【石川】GL2019までは高齢者の降圧目標をフレイルのあるなしでわけており,独歩で通院困難な患者では目標値を個別的に判断するとしていました。しかし,GL2025ではもう少し具体的に,フレイル,要介護,エンド・オブ・ライフといった全般的状況に応じて,75歳以上の高齢者の降圧指針を示したのが新しい点だと思います。
このあたりはエビデンスが乏しい中で,どういう過程で決まったのかという問題は残ります。日常生活動作(ADL)が低下した高齢者では,合併疾患に対して多剤服用の状態なので,さらに薬を加えるよりも,むしろ減らす方向にするのも重要になると思います。
エンド・オブ・ライフといっても幅広いので,認知症や腎機能障害などの合併症や副作用を考慮しながら,個別的に降圧目標を設定せざるをえないでしょう。
【甲斐】高齢者の降圧目標を収縮期血圧130mmHgとした根拠ですが,今回は脳心血管イベントを主要評価項目とし,糖尿病,腎疾患,脳血管障害などを含めた症例でのシステマティック・レビューを行い,それをエビデンスとして参考にしました。
フレイル症例に関しては,その定義が日常臨床で用いている定義と必ずしも一致しないため,エビデンスに基づくとは言いきれません。たとえば,表1 1)中のカテゴリー2などは,一応の目安とはしていますが,実際には主治医の判断によるところが大きいわけです。

【桑島】「エンド・オブ・ライフ」という言葉は,どういうことを想定してこの名前をつけたのですか。
【甲斐】エンド・オブ・ライフは末期がん,高度の認知症,高度のフレイルなど,要介護施設に入所しているような高齢者を想定しています。そのような症例では,降圧療法がむしろ有害である可能性もあるということを,GL2025(151ページ)にも記載しています。
糖尿病合併高血圧の降圧目標も130mmHg未満
【桑島】次は糖尿病合併高血圧の話題に移りたいと思います。
糖尿病と脳卒中合併例は,米国のSPRINT試験では対象から除外されていたため,収縮期血圧を120 mmHgまで下げたほうがよいというエビデンスは乏しかったのです。しかし,その後,中国から大規模臨床試験がいくつか発表され,これらの合併症例でも140mmHgより120mmHgのほうが,心血管予防効果があるという結果が出ています。GL2025では,糖尿病,脳血管障害合併例の降圧目標は130/80mmHgと明記されています。