血管性浮腫(angioedema:AE)は,皮膚や粘膜の深部に生じる浮腫で,蕁麻疹とは異なり境界が不明瞭です。中でも,遺伝的背景を持ち,再発を繰り返すものが遺伝性AE(hereditary AE:HAE)です。皮膚だけでなく,消化管や気道にも浮腫をきたし,時に致死的な経過をとることもある,重要な疾患です。腹痛を繰り返す,家族にも同様の症状がある,思春期や妊娠期に悪化するなどの特徴があれば,まずHAEを疑うことから始めましょう。HAEを知り,そして気づくことが診断への第一歩となります。
血管性浮腫(AE)と遺伝性血管性浮腫(HAE)
AEは,組織の深部に起こる浮腫で,局所的な血管透過性亢進が原因と考えられています。蕁麻疹は皮膚の浅い部分で血管透過性が亢進した結果,境界明瞭で赤みを帯びた皮疹を形成します。AEは蕁麻疹とは異なり,境界不明瞭で色調変化に乏しい浮腫が生じ,痒みを伴わないのも特徴です。皮膚や気道,消化管に発生すると言われていますが,上皮組織であればどこにでも生じえます。
このうち,遺伝的背景を持ち,AEを反復するものがHAEです。手足や顔面が腫れるだけでなく,急性腹症とも言える強い腹痛を繰り返し,気道の浮腫から窒息して死に至ることもある,看過できない疾患です。過去には,HAE患者の約30%が窒息により死亡していたという報告もあります1)。近年は,治療薬の進歩により,根治はできないものの,ある程度の疾患コントロールが可能となってきました。まずは本疾患を知り,そして「気づく」ことから始めて頂きたいと思います。最後までどうぞお付き合い下さい。
HAEの歴史と病型について
HAEに関する記述の歴史は古く,1888年にWilliam Oslerが家族性に発症する浮腫の症例を報告した記録が残っています2)。その後,1963年にDonaldsonらが,補体C1インヒビター(C1-INH)の欠損が原因であることを報告しました3)。
C1-INHは,セリンプロテアーゼに対して働くserine protease inhibitor(serpin)の一種で,現在では,11番染色体に存在するC1-INHをコードとする遺伝子に変異を起こすことが明らかになっており,変異が起きた遺伝子はSERPING1と呼ばれています4)。C1-INHは,補体系,凝固系,線溶系,キニン・カリクレイン系など,多数のカスケードの制御に関与しています5)。その結果,遺伝的にC1-INHが欠乏すると,最終的にブラジキニンが過剰に産生され,AEが生じると考えられています。
HAEは,C1-INHの定量的欠乏を示すHAE1型,C1-INHの活性低下のみを示すHAE2型に分類され,いずれも常染色体顕性遺伝の形式をとります。しかし2000年に,BorkらおよびBinkleyらにより,C1-INHが正常であるにもかかわらず家族性にAEをきたす患者群が,HAE3型として報告されました6)7)。さらに,HAE3型患者の一部に凝固第Ⅻ因子遺伝子異常が報告され(HAE-FⅫ),SERPING1以外の遺伝子も原因となりうることが明らかになりました6)。その後,他の原因遺伝子も次々に報告され,現在ではAEは表1のように分類されています8)~11)。

HAEを見わけるポイント
診断は「疑う」ことから始まります。HAEの頻度は約5万人に1人と報告されており,人種差はないと考えられています。したがって,日本には約2500人の患者さんが存在するはずです。しかし,現時点で把握されているのは数百名にとどまり,多くの患者さんが未診断のままである可能性が高いと考えられます。症状が一見ありふれた「むくみ」や「腹痛」として見過ごされやすいことが,その一因でしょう。プライマリ・ケア医がHAEを「疑う視点」を持つことが,救命のみならずQOLの改善にもつながります。
HAEの浮腫は,皮下や粘膜下など深部に限局して生じます。前述の通り,境界は不明瞭で,蕁麻疹と異なり痒みを伴いません。皮膚,舌,咽頭,消化管,外陰部など,上皮組織であればいずれの部位にも起こりえます。皮膚では非対称性の腫脹を呈し,消化管では強い腹痛や嘔吐,下痢を伴うことが多いとされています。蕁麻疹を伴わない腫れがある,原因不明の腹痛を繰り返す,家族にも同様の発作がみられる……。こうした情報がそろえば,HAEを強く疑うサインです。抗ヒスタミン薬やステロイド,アドレナリンが無効な浮腫は,アレルギー性ではなく,ブラジキニン依存型の浮腫を示唆します。
他疾患との鑑別
HAEで最も重要な鑑別疾患は,アレルギーに伴うAEです。アレルギー性AEでは発症が急速で,痒みや紅斑を伴い,抗ヒスタミン薬が有効です。一方,HAEでは,数時間かけて腫脹が進行し,ピーク時症状の持続期間も2〜3日と長く,治療反応性が乏しいことが特徴です(図1)12)。

また,自己免疫性疾患や薬剤性(ACE阻害薬など)による後天性AE(acquired AE:AAE)も鑑別疾患に挙げる必要があります。診療の現場では,発症部位,時間経過,痒みの有無,治療反応性,家族歴の5点を,問診で押さえておくとよいでしょう。
腹痛・嘔吐・下痢を繰り返す消化管型HAEは,過敏性腸症候群や腸炎,婦人科疾患,さらには心因性と誤診されることがあります。女性では思春期や妊娠期に発症する例が多く,ホルモン変化が誘因となることもあります。特に救急外来で,CTにより腸管浮腫を指摘されたにもかかわらず,入院しても原因不明とされるような経過をたどる患者さんがいた場合には,必ずHAEを念頭に置いて下さい。
診断の決め手は,「再発性」「非アレルギー性」「家族歴」です。なお,約4分の1の患者さんは新規変異によって発症します13)。したがって,家族歴がなくてもHAEを否定することはできません。若年期から反復する浮腫や腹痛を認める場合には,家族歴の有無にかかわらず,HAEを積極的に疑うことが重要です。
疑い,そして気づいてほしい
プライマリ・ケア医に求められるのは,まずHAEを疑い,確実に診断へとつなげることです。HAEは発作の予測が難しい疾患ですが,「気づかれる」ことで救われる病気でもあります。診療の第一歩は「疑い」,そして「気づく」ことです。それが,診断・治療・長期管理へとつながる,最も重要なステップなのです。
【文献】
1) Bork K, et al:Arch Intern Med. 2003;163(10):1229-35.
2) Osler W:Am J med Sci. 1888;95:362.
3) Donaldson VH, et al:Am J Med. 1963;35:37-44.
4) Carter PE, et al:Eur J Biochem. 1991;197(2):301-8.
5) Bork K:Dtsch Arztebl Int. 2010;107(23):408-14.
6) Bork K, et al:Lancet. 2000;356(9225):213-7.
7) Binkley KE, et al:J Allergy Clin Immunol. 2000;106(3): 546-50.
8) Maurer M, et al:Allergy. 2022;77(7):1961-90.
9) D'Apolito M, et al:J Allergy Clin Immunol. 2024;154(3): 698-706.
10) Vincent D, et al:J Allergy Clin Immunol Glob. 2024;3(2): 100223.
11) 堀内孝彦, 他:補体. 2023;60(2):103-31.
12) Yakushiji H, et al:Intern Med. 2023;62(13):2005-8.
13) Pappalardo E, et al:J Allergy Clin Immunol. 2000;106(6): 1147-54.