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自動運転技術を過信しない[先生、ご存知ですか(94)]

登録日: 2025.12.29 最終更新日: 2025.12.29

一杉正仁 (滋賀医科大学社会医学講座教授)

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進歩する自動運転

技術の進歩に伴って、車の自動運転が現実的になりつつあります。自動運転には5段階のレベルがあり、レベル1は人間の運転を支援する技術です。これには、自動ブレーキ、車線逸脱防止、前の車への追従などが挙げられます。レベル2は特定条件下での自動運転であり、高速道路での自動運転モードなどが該当します。レベル3はシステムがすべての運転タスクを実施しますが、システムの介入要求に対して運転者が適切に対応する必要があります。レベル3以降はシステムが主となる運転であり、レベル5では常にすべての運転をシステムが行うことになります。

さて、最も基本的なレベル1でみられる、車線逸脱防止支援システムや自動ブレーキについては、テレビのCMでも紹介されており、一般的になっています。多くの方は、これらのシステムが搭載されている自動車では、事故が起きにくいと信じていると思います。

レベル1の搭載システム

レベル1で搭載されているシステムは、先進運転支援システムと呼ばれています。車両に搭載されている各種センサーから得た情報をもとに、車両周辺の状況を確認することで、安全確保と運転快適性の向上を図るシステムです。これに含まれる車線逸脱防止支援システムですが、走行車線を認識して、逸脱しそうな状況において自車を車線内に戻す機能があります。しかし、この機能には作動条件があります。それは、車速が60km/h以上であること、ステアリングや方向指示レバーを操作していないこと、左右の車線が認識できることなどです。衝突被害軽減ブレーキ(自動ブレーキ)には、レーダーやカメラで前方の車両、歩行者などとの距離、相対速度を検出し、衝突回避や被害軽減のために自動的にブレーキをかける機能があります。この機能にも作動条件があり、対象物が四輪車、二輪車、自転車、歩行者であること、極端な傾斜や転落の可能性など、路面や車体が不安定でないことなどが挙げられます。

事故の予防可能性

前記の車線逸脱防止支援システムおよび衝突被害軽減ブレーキによって、実際に発生した事故をどの程度予防できるかについて、シミュレーションを行いました。今回注目したのは、運転者の体調変化による事故です。運転中に心疾患や脳血管疾患などを発症した際には、衝突回避行動をとることが困難と考えられています。そこで、運転中に何らかの疾病が発症し、その疾病によって運転者が死亡した例を対象として、体調変化後に生じた事故の予防可能性を検討しました。

すると、車線逸脱防止支援システムで予防が可能な事故は13.6%、衝突被害軽減ブレーキで予防が可能な事故は8.5%であり、予防可能と考えられた事故は、併せて約22%という結果でした。車線逸脱防止支援システムが作動しない最大の理由は、車速が60km/h未満であることで、衝突被害軽減ブレーキが作動しない最大の理由は、対象物が車両や歩行者ではないことでした。

技術を過信しない

先進運転支援システムが搭載されている自動車でも、事故予防可能性は低いことがわかりました。やはり、自動車の運転は人が主体です。そのため、運転者の心身特性を理解した上で、運転環境に適応できるかを検討する必要があります。自動車運転の可否については、医師の診断書が大きな役割を果たします。当分は、技術を過信しないほうがよいようです。


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