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モーリタニア・セネガルで発生したリフトバレー熱のアウトブレイク[感染症今昔物語ー話題の感染症ピックアップー(42)]

登録日: 2025.12.24 最終更新日: 2025.12.25

石金正裕 (国立健康危機管理研究機構国立国際医療センター国際感染症センター/AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)

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●リフトバレー熱とは1)

リフトバレー熱(Rift Valley fever:RVF)は,ブニヤウイルス科フレボウイルス属のRVFウイルスによる動物由来感染症です。蚊の媒介,感染動物の血液や臓器への接触によりヒトへ感染します。現時点でヒトからヒトへの感染例の報告はありません。日本では感染症法の四類感染症で,診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出る必要があります。

1930年にケニアのリフトバレーでウイルスが初めて分離同定されたことにちなんで命名されました。ウイルスは,主にエジプトおよびサハラ砂漠以南の各国,アラビア半島に分布しています。発熱,頭痛,筋肉痛,背部痛などのインフルエンザ様症状を呈し,通常は2~7日で回復します。0.5~1%の患者に重篤な症状がみられ,発症から3週間後に眼の症状(霧視,視力低下)や脳炎症状(1%未満)が出現することがあります。眼病変をきたした場合は50%が失明に至ると報告されています。死亡率は1%未満です。有効な抗ウイルス薬は開発されていないため,対症療法が中心です。

●モーリタニア・セネガルでリフトバレー熱がアウトブレイク2)

2025年9月20日から10月30日までに,モーリタニアとセネガルからWHOへリフトバレー熱のヒト感染404例(うち42例の死亡)が報告されました。内訳はモーリタニアから46例(死亡14例,死亡率30%),セネガルから358例(死亡28例,死亡率7.8%)です。また,モーリタニアでは235件の動物感染(ラクダ・羊・ヤギ・牛),セネガルでは160件の動物感染(羊・ヤギ・牛)が報告されました。

公衆衛生対応として両国で保健・獣医部門の合同迅速対応チームが展開され,公衆衛生・動物衛生・環境分野間の連携強化に基づくワンヘルスアプローチで国・地域レベルの指揮系統が整備されました。サーベイランス強化,地域レベルの検査能力拡充,重症例対応力の強化,リスクコミュニケーションの強化,感染予防管理の強化,検査物資の調達配布,デジタルデータ管理と状況報告の更新などが実施されました。

WHOの公衆衛生リスク評価はモーリタニア・セネガルを「高」,地域を「中」,世界を「低」としました。理由としては,両国で異例の感染規模を示しており家畜移動を介した越境拡大が懸念されること,重症例が多く(特にセネガルでは11%が出血症状を呈し,28人が死亡),症例把握の遅れや臨床管理の課題が示唆されること,などが考えられています。

リフトバレー熱は人畜共通感染症であるため,感染拡大防止のためには,ワンヘルスアプローチがきわめて重要です。さらに,感染の早期発見と適切な患者ケア,死亡率低減のための教育・監視の強化が重要です。

今回のリフトバレー熱の感染拡大はアフリカにおいてのものです。西アフリカと日本の間には直行便もなく,日本への直接的影響は限定的と考えられます。しかし,日本国内にはRVFウイルスを媒介可能な蚊(ヤブカ属・イエカ属)が分布しており,さらに,国と国の往来が容易な時代だからこそ,日本においてもリフトバレー熱の今後の流行状況について注視が必要です。

【文献】

1) 東京都感染症情報センター:リフトバレー熱.(2025年11月29日アクセス)

2) WHO:Rift Valley fever- Mauritania and Senegal.(2025年11月29日アクセス)

石金正裕 (国立国際医療研究センター病院国際感染症センター/ AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)

2007年佐賀大学医学部卒。感染症内科専門医・指導医・評議員。沖縄県立北部病院,聖路加国際病院,国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP)などを経て,2016年より現職。医師・医学博士。著書に「まだ変えられる! くすりがきかない未来:知っておきたい薬剤耐性(AMR)のはなし」(南山堂)など。


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