
手術後の浮腫は,リハビリテーションの支障になることが多く,早期に手術を行えたとしても可動域制限などが生じ治療が上手く進まないことがよくある。特に整形外科手術後あるいは骨折後のギプス固定での浮腫,腫脹は,患者のADL低下,不安が大きくなるため丁寧に治療を行う必要がある。
浮腫,腫脹に関する漢方薬は,柴苓湯,治打撲一方,桂枝茯苓丸などがある。骨折術後,捻挫など外傷による腫脹で救急外来などでは治打撲一方が利用されることが多い。当院の臨床成績では,骨折,打撲,捻挫での腫脹があり治打撲一方を内服し改善したのは,男性71%,女性76%であった。疼痛は,NRS(Numerical Rating Scale)10から6に軽減した。
柴苓湯に余剰水分のみを排出する作用
柴苓湯は,脱水状態の際に服用すると水分を保持し,水分過剰の状態では1~4時間で尿量を増加させる。西洋薬の利尿作用とは異なり余剰水分のみを排出してくれる利水作用1)が特徴である。柴苓湯には,抗炎症作用を有する小柴胡湯とアクアポリンをブロックする五苓散が入っており,浮腫を抑制する2)。炎症性サイトカインの産生を亢進するNF-kBの活性を直接抑制する効果や人工股関節置換術後,柴苓湯を服用すると,下腿周囲径の減少が早く,CRPの正常化が有意に早いことなどが報告されている3)。
桂枝茯苓丸は,深部静脈血栓症の下腿腫脹の改善に有効であった報告4)や頸椎前方手術後の喉頭浮腫を軽減する効果が認められている5)。
まずは使ってみることが大切
特に整形外科の人工関節手術後の腫脹は,リハビリテーションでの訓練に支障が生じるため漢方薬に大変救われる機会が多い。漢方薬には,実はエビデンスが多くあり,筆者も腫脹,浮腫,疼痛の改善などを疼痛漢方研究会や講演会で報告している。生薬を理解することも大切であるが,まずは使ってみることが大切である。
腫脹や浮腫などを改善する西洋薬にはない抗炎症作用と利水作用を含んだ漢方薬の利点を生かしながら,西洋薬や手術後などの困った際の切り札として漢方薬を併用していくことは患者の満足度を高めることにつながる。決して漢方薬単独で攻めるのではなく,治療を進める過程の中での補剤として使用していくと良いと考える。

