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沖縄県での修学旅行に関連した腸管出血性大腸菌感染症のアウトブレイク[感染症今昔物語ー話題の感染症ピックアップー(41)]

登録日: 2025.12.01 最終更新日: 2025.12.01

石金正裕 (国立健康危機管理研究機構国立国際医療センター国際感染症センター/AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)

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●腸管出血性大腸菌感染症とは1)

腸管出血性大腸菌(Enterohemorrhagic Escherichia coli:EHEC) 感染症は,ベロ毒素(VT/Stx)を産生する大腸菌(O157など)による感染症で,わずか数十個の菌でも発症します。感染経路は汚染食品(加熱不十分な食肉・生野菜など)の摂取や,感染者の便を介した手指・接触による二次感染です。潜伏期は2〜9日間で,激しい腹痛や水様下痢,血便を呈し,乳幼児や基礎疾患のある高齢者では,稀に溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome:HUS)や脳症などの重篤な合併症を起こすことがあります。治療は主に対症療法で,水分補給や電解質補正を行い,重症例では集中治療を要します。

EHEC感染症は感染症法上の三類感染症に指定され,診断した医師は直ちに保健所へ届出が必要です。予防には十分な加熱調理,手洗い,環境消毒が重要で,特に保育所や学校などの集団施設では,早期発見と感染拡大防止が不可欠です。激しい腹痛と血便をみた場合はEHEC感染症を疑い,迅速な検査・届出・感染対策を実施することが求められます。医療従事者は地域と連携し,発生時には適切な情報共有と対応を行うことが重要です。

●沖縄県で修学旅行に関連したEHEC感染症のアウトブレイクが発生2)

10月29日に,沖縄県は糸満市のレストランを原因施設とする集団食中毒が発生したと発表しました。170人の修学旅行生らに腹痛や下痢,血便などの症状が表れ,このうちEHEC検出者(O157含む)は68人でした。この食中毒は,10月14日から18日にかけて沖縄県を訪れていた修学旅行生らがレストランで提供された食事を喫食したことによるもので,10月29日時点で把握されている状況は以下になります。

• 喫食者:865人 (神奈川県川崎市,山形県山形市,長野県長野市,東京都の高校生ら)
• 有症者:170人 (喫食者の約20%)
• EHEC検出者 (O157含む):68人
• 入院者:30人 (有症者の約18%)

発症日は10月16日から21日にかけてで,主な症状は腹痛,下痢,血便などです。今回の集団感染は,10月22日,修学旅行で沖縄県を訪れた川崎市の高校生らが体調不良を訴え,うち5人からO157が検出されたことから調査が開始されました。その後,24日には山形市と長野市からも,同時期に沖縄県を訪れた高校生らに同様の症状が出ているとの情報が寄せられ,28日には東京都でも体調不良者が複数確認されているとの情報提供がありました。保健所の調査で,これらの修学旅行生は共通して糸満市のレストランで食事をしていたことが判明しました。

複数の有症者からO157が検出されたことや,症状および潜伏期間がEHECによる食中毒の特徴と一致していることからEHEC感染症と判断され,保健所は10月29日,このレストランに対してすべての営業を禁止する行政処分を行いました。

こうした食中毒を防ぐには,食品の十分な加熱(75℃,1分間以上)や,生肉を扱った後はよく手を洗うこと,生肉を取る箸と食べる箸をわけること,などの感染予防対策が重要です。

【文献】

1)東京都感染症情報センター:腸管出血性大腸菌感染症(O157など).(2025年11月3日アクセス)
2)YAHOO!ニュース:大腸菌「O157」など食中毒 集団感染で170人が発症 修学旅行で沖縄を訪れた1都3県の高校生ら. (2025年11月3日アクセス)

石金正裕 (国立国際医療研究センター病院国際感染症センター/ AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)

2007年佐賀大学医学部卒。感染症内科専門医・指導医・評議員。沖縄県立北部病院,聖路加国際病院,国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP)などを経て,2016年より現職。医師・医学博士。著書に「まだ変えられる! くすりがきかない未来:知っておきたい薬剤耐性(AMR)のはなし」(南山堂)など。


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