「なんにもないのよ、わたしがみんな使っちゃって。ねー、ひどいねー。あの人もわかってたのよ、お金使うって。だってファンクラブの会長ってそういうもんだよーって」。
42秒の動画が携帯に残っている。高島平団地の一室で、お話好きの奥さんが語ってくれているのはご主人との馴れ初め、その後の2人の生活。聞いているのはアシスタントと私。ちょっと変わっているのは時刻が午前2時だということ。そして、ご主人が今しがた旅立たれた後だということ。
「奥さんが、夫が呼吸をしていないみたいだって言っています。慌てた感じじゃないです」。アシスタントからの連絡で出動する。いつもの団地の見慣れた間取り。キッチンを通って奥に部屋が2つある。右側の部屋の介護ベッドの上でご主人が安らかに眠られている。「もう旅立たれていますね」「あー、そうよねー」。お看取りをさせて頂き、キッチンに戻って座る。