検索

×
絞り込み:
124
カテゴリー
診療科
コーナー
解説文、目次
著者名
シリーズ

【識者の眼】「保険料負担の逆進性と副業・兼業の増加」村上正泰

登録日: 2025.11.27 最終更新日: 2025.11.27

村上正泰 (山形大学大学院医学系研究科医療政策学講座教授)

お気に入りに登録する

現役世代の社会保険料負担の重さが議論になっているが、その際にしばしば見落とされがちなのは、社会保険料には逆進性が存在しているという問題である。保険料算定の基礎となる標準報酬月額に上限が設けられているため、報酬水準がそれを上回っている場合には、保険料負担額が一定となり、所得に対する負担割合が低下するからである。同様の仕組みは国民健康保険にもみられ、年間の保険料賦課限度額が設定されている。これまでの累次の見直しにより、被用者保険でも国民健康保険でもこれらの上限は引き上げられてきており、上限該当者の割合は低下している。しかし、上限がある以上、高額所得者の負担が相対的に軽くなっていることに変わりはない。

また、被用者保険のうち、協会けんぽの保険料率は全国平均で10.0%だが、健保組合の平均保険料率は9.3%である。しかし、両者の平均総報酬額を比較すると、協会けんぽのほうが約150万円低い。また、健保組合の24.5%では協会けんぽの保険料率を超えている。一方で、27.2%では保険料率が9.0%を下回っている。かつてに比べると、健保組合の保険料率が上昇してきたのは確かだが、組合間で依然として大きなばらつきがあり、一般的には所得水準の高い健保組合ほど保険料率が低い傾向にあると言われている。こうした意味でも、保険料負担には逆進性が存在している。

後期高齢者支援金の各保険者の負担を加入者割から総報酬割に見直すなど、応能負担を強化する方向での対応も行われてきたが、医療保険の分立構造を前提とする以上、負担の不均衡を完全に解消することは不可能である。これは公平性だけではなく、保険料の財源調達力の観点からも問題である。

逆進性の問題は以前から指摘されてきたが、近年の多様化する働き方は新たな課題をもたらしかねない。たとえば、副業・兼業を行うサラリーマンも増えている。現状でも複数の事業所で加入要件を満たす場合には手続きが必要ではあるものの、副業・兼業の収入には多くの場合、保険料が賦課されていない。このため、合計した所得額に対する保険料負担が相対的に軽くなっている。

仮に健康保険に加入している主たる勤務先の勤務時間を減らして副業・兼業を行う場合、主たる勤務先からの給与が減少し、副業・兼業先の給与に保険料が賦課されなければ、保険料財源の減少にもつながりうる。

主たる勤務先と副業・兼業先で加入している健康保険が異なると、調整も複雑になる。副業・兼業などの収入も含めて応能負担を徹底しようとすれば、少なくとも被用者保険(本来的には医療保険制度全体)の一元化を検討する必要もある。一元化は実現のハードルがきわめて高いが、制度間の逆進性の解決にもつながる。

保険料負担については、逆進性の問題や、その背景にある医療保険制度体系自体の問題にも目を向ける必要がある。

村上正泰(山形大学大学院医学系研究科医療政策学講座教授)[社会保険料][協会けんぽ健保組合

ご意見・ご感想はこちらより


1