2025年10月27日に開催された社会保障審議会(医療部会)で示された資料では、今後の人材確保に関する厳しい現実を突きつけるデータが提示されました。
2025年時点で940万人程度の医療・福祉分野の従事者が、2040年には1070万人程度まで必要になると推計されています。これは2040年の総就業者数の20%程度を占める見込みです。2025年の比率は15%程度ですから、他産業からさらに5%分の人材を確保しなければ到底達成できない数字です。
一方、2024年度の看護師養成施設(大学を含む)の定員充足率は100%を下回り、入学者数も前年比で減少しています。この傾向はほかの医療専門職の養成施設でも同様で、職種や都道府県によっては定員充足率が50%を下回るところもあります。
これまで、医師の働き方改革や看護職員の負担軽減といった課題に対応するため、他職種へのタスクシフトが進められてきました。しかし今後は、業務移管の「受け皿」となる人材そのものが不足するフェーズに入ります。当院でも患者数の増加や業務見直しに伴い、多くの医療専門職を採用してきましたが、これまでと同じ人事政策では立ち行かなくなるだろうという危機感を持っています。
このような状況では「いま働いているスタッフにいかに定着してもらうか」が重要な課題になります。しかし、単に「辞めさせない」ための対策だけでは不十分です。たとえば、1人あたりの業務量を減らせば退職者は減るかもしれませんが、それでは診療の生産性が低下し、経営が成り立ちません。医療機関を健全に運営していくには、スタッフ1人ひとりが一人前の仕事を全うできるようにするための人材育成が不可欠です。
人材育成というと、医療技術の向上や専門知識の習得に目が向きがちですが、チーム医療が浸透し、分業と協働が進む現代においては、むしろ「ノンテクニカルスキル」、すなわち、コミュニケーションスキル、チームワーク、リーダーシップといった、いわば「人間力」あるいは「社会人基礎力」とも呼べる力の育成が、ますます重要になっていると感じます。そのためには、採用した一人ひとりのスタッフを「社会人として一人前に育てていく」教育が、これまで以上に求められます。
先日参加したセミナーで、「組織は教育を目的化せよ」という言葉を耳にしました。「人は変わる」「人は変われる」という前提を組織文化の根幹に据え、スタッフ1人ひとりの成長を信じ、合意形成を大切にしながら伴走することで、組織も成長し、業績にもつながるという内容でした。
近年は、テクニカルな部分以外の指導が、「自己啓発っぽい」「プライベートへの干渉だ」「ハラスメントにつながる」といった批判を受けやすく、指導が難しい時代になりつつあります。だからこそ一歩ふみ込み、医療技術以外の成長にコミットしていく必要があります。「職員が採用できない時代」は、既に到来しつつあります。
藤田哲朗(医療法人社団藤聖会理事、富山西総合病院事務長、医療経営士1級)[病院経営][人事政策]