①国民から徴収し、②財源をつくり、③民間事業者がサービスを国民に提供し、④その費用を財源から支払う─これが、医療・介護というサービスを内容とする社会保険の基本構造である。したがって、「医療のファイナンスは社会保険方式がよいのか、税方式がよいのか」という問題は、①負担者、②財源、③サービスプロバイダー、④受益者の4つの視点から考えればよい。
①の視点
国民にとって税と社会保険料はどちらも「負担」であり、2種類あるのはわかりにくいため統一したくなる。応能負担の観点から税をすべてなくすことはできないから、1本化するなら税方式にするしかない。ポピュリストが国民を馬鹿だと思えば、この点を強調するだろう。
ただし、社会保険料を減らしても税が増えるか(租税代替化)、あるいは保険を介さずに自費でサービスを購入する人が増えるだけで、「負担」の総量が減るわけではない。また、税は国民全体でリスクをプールする仕組みであり、国民の連帯が前提となる。
②の視点
税の使い道は毎年度、国会で審議されて決まるため、民主的統制という意味では税方式に軍配が上がる。しかし、その分、ときどきの政治情勢に左右されやすく、財源としての安定性を損なう。そのため、財源の安定性という観点からは社会保険方式がまさる。財源が不安定になればサービスの給付量も下がるが、それ以前に病院の建設や人材雇用といった資本投資が困難になる。
③の視点
日本では医療サービスの提供者は民間が主体である。サービスプロバイダーは法律で応召義務を負っており、求められれば医療を提供しなければならない。他方で、民間事業者である以上、行った業務の報酬がきちんと支払われるのかに強い関心を持つ。そのときに、社会保険でつくられた財源であれば、その目的以外に使われることはない。しかし、税方式にはその保証がなく、ほかの目的に支出されていつの間にか枯渇している可能性もある。これでは医療者は安心して仕事ができない。
実際、フランスでは1990年代に社会保険料を大幅に引き下げ、代わりに社会保障目的税(CSG)を引き上げた。その後、CSGの用途は随時変更され、何に対する特定財源なのかわかりにくくなっている。お金に色はついていないのだから、目的税と言っても安心はできない。税とはそういうものである。
もし、医療のファイナンスが税方式になれば、後払いに不安を感じる医療者は、サービスを提供する前(またはその直後)にデポジットを求めるようになるだろう。もちろん、医療機関をすべて公立にし、医療者を全員公務員にすれば、税方式でも「あとでちゃんと支払ってもらえるのだろうか」などと心配せずに医療に専念できる。これは、ソビエト連邦の初代厚生長官ニコライ・セマシュコが構築した医療制度「セマシュコ・モデル」と呼ばれる仕組みであり、その末路は悲惨だった。
④の視点
受益者にとって、社会保険か税かという問題は、サービスの受給資格に関わる。税方式であれば、その国の全住民が受益者になる。社会保険方式であれば、原則として保険料を支払った者が受益者になる。もっとも、皆保険制度のもとでは、どちらでも大きな違いはない。
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総合すると、応能負担の要請による税(公費)の役割は一定程度残るが、それでもサービスプロバイダーが民間事業者である日本では、社会保険方式を中心としたファイナンスしかありえない。我々医療者も、社会保険を軸にした負担論から逃げてはならない。
森井大一(日本医師会総合政策研究機構主席研究員)[医療保障][社会保険方式][税方式]