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【識者の眼】「EBM、ガイドライン、AI②─ガイドラインの根拠を問う」名郷直樹

登録日: 2025.11.21 最終更新日: 2025.11.21

名郷直樹 (武蔵国分寺公園クリニック名誉院長)

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批判的吟味には様々な着眼点があるが、単なる推奨度だけでなく、根拠となる論文の定量的評価は直感的に理解しやすく、臨床効果とも対比できる。本稿では、その視点からガイドラインを検討する。

循環器内科医の多くは、急性冠症候群後の脂質異常症に対してスタチンとエゼチミブの併用療法を行っているのではないだろうか。なぜなら、日本循環器学会のガイドラインにそう記載されているからである。急性冠症候群ガイドラインでは、「最大用量のスタチンを用いてもLDL-C値が70mg/dLに到達しない高リスク患者に対して、エゼチミブ投与を考慮する(推奨クラスⅡa:エビデンス・見解から、有効・有用である可能性が高い)」と記載されている。

しかし、ガイドラインを鵜呑みにせず、その根拠となった原著論文まで確認したことはあるだろうか。

その根拠となったIMPROVE-IT試験を紹介する1)。この研究は、急性冠症候群後のスタチン療法にエゼチミブを追加する効果を評価したランダム化比較試験である。シンバスタチン単独群と比較して、シンバスタチン・エゼチミブ併用群では、心血管死、非致死性心筋梗塞、再入院を要する不安定狭心症、冠動脈血行再建術、非致死性脳卒中の複合エンドポイントを7年間で有意に減少させた。併用群が32.7%、単剤群が34.7%(HR:0.936、95%信頼区間:0.89〜0.99)であった。やはり、エゼチミブを併用すべきなのだろうか。

では、95%信頼区間を確認しよう。下限値0.89は、最も効果がある場合で1割のリスク減少と解釈できる。上限値0.99は、ほぼ差がないことを意味する。統計学的には有意差があるが、臨床的意義は小さい。

次に、統計学的な有意差ではなく臨床的な意味の差を検討するため、臨床的に意義のある最小差(minimal clinically important difference:MCID)を紹介する。これは「少なくともこの差を超えなければ、その介入は患者にとって意味がないかもしれない」という、臨床的観点から見た有意差の基準である。

2012年にLiらは、スタチン療法のアウトカムに関するMCIDを報告した2)。スタチン療法によって血管イベントの相対危険(RR)が少なくとも約3分の1減少する場合に、スタチン開始を推奨できると結論づけている。すなわち、RR 0.66程度がMCIDとされる。急性冠症候群後のエゼチミブ導入では厳密には異なるが、IMPROVE-IT試験の下限値の0.89ですら、この基準を満たさない。多くの臨床医は、この効果は臨床的に意味が小さいと考えるのだろう。

確かに、効果が小さくとも、若年者の二次予防ではエゼチミブが選択肢の1つとなる。しかし、定量的評価をせずに、ガイドライン記載のままエゼチミブ導入が正しいと言えるだろうか。予後、ADL、認知機能、患者の意向、服薬負担など、患者ごとに状況は異なる。それらをふまえ、介入の効果を考慮した上で、薬剤追加を決定すべきだ。主体的に情報を検索し、原著論文を批判的に吟味して、個々の患者への適用を検討したい。

【文献】

1) Cannon CP, et al:N Engl J Med. 2015;372(25):2387-97.

2) Li KK, et al:J Clin Epidemiol. 2012;65(9):954-61.

名郷直樹(武蔵国分寺公園クリニック名誉院長)[ガイドライン][定量的評価

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