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島民と育てた、ケアの文化のデザイン(岩瀬 翔)[プラタナス]

登録日: 2025.11.13 最終更新日: 2025.11.13

岩瀬 翔 (元・式根島診療所長、現・青ヶ島診療所長)

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東京都にも離島があることをご存知だろうか。東京タワーを臨む竹芝桟橋からフェリーで約9時間。式根島は、伊豆諸島北部に位置する人口約450人の小さな離島だ。私は卒後4年目に島唯一の医師として赴任した。

式根島に赴任してすぐ、島を離れなければいけない老夫婦への病状説明を前任医師から引き継いだ。認知症が進行し糖尿病の服薬管理ができない妻、慢性腎臓病が悪化し透析導入を避けられない夫が、資源の限られた島内で生活するのは確かに限界状態であった。

式根島の高齢化率は42.6%と、伊豆諸島1番である(2023年時点)。一方、医療資源は診療所が1つだけで、透析施設もない。介護資源は社会福祉協議会の職員2名、訪問介護士1名、週2回のデイサービスのみであり、島内で最期まで暮らすためにはどうしても親族や近隣の介護が必要であった。

説明当日、話を終えると「もう、島にいることはできないんだな」と旦那さんは状況を噛み締めていた。これが私の聞きたかった言葉なのか。離島の医師として島の生活を支えることをめざしてきた私にとって、悔しい挫折だった。「幸せで健康な暮らしは、医師1人ではつくり出せない」ということを思い知った。


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