すべての団塊の世代が75歳に到達した2025年度も後半に入った。中山間地域の医療や介護の現場では、近い将来、人口減少に伴う患者数・利用者数の減少や、少子化による担い手不足などが現実のものとなり、厳しい局面を迎えることが予想される。厚生労働省では、2040年を見据えた「新たな地域医療構想」や「医師偏在是正対策」などの議論を進めているが、都市部とは異なり中山間地域では5〜10年早い段階での対応が求められるのではないかと考える。
秋田県の中山間地域に位置する当地域では、高齢化と人口減少が加速している。外来・入院患者数は減少し、病院では空床が目立つようになった。高齢独居世帯が増加し、入院した高齢者は治療を終えても自宅での生活が困難なため、自宅へ戻れず施設に入所するケースが多くなっている。その結果、自宅への訪問診療件数は減少し、有料老人ホームなどの施設への訪問診療件数が増加している。
当院では、入院患者の約6割が85歳以上であり、医療ニーズに加えて介護・福祉のニーズを併せ持つ患者、多疾患併存患者、認知症患者が増えている。そのため、看護師には介護的な業務も求められ、疲弊が進んでいるのが現状である。一般病棟においても介護職員の配置が必要となっている。一方で、施設では医療必要度の高い利用者が増加しており、状態が悪化して病院へ救急搬送される高齢者も多くなっている。こうした状況から、施設と医療機関との連携・協力体制の強化がいっそう重要となっている。
また、18歳人口の減少により、今後の医療や介護の担い手が不足することが懸念される。診療科偏在を含めた医師偏在や看護師、介護職員など、あらゆる職種での人材不足が今後の重要な課題である。
中山間地域の医療提供体制の現状を俯瞰すると、継承者不足により閉院せざるをえない診療所や、専門医・看護師の不足により医療機能を制限せざるをえない病院が目立つようになってきた。近い将来、かかりつけ医機能を有し、在宅医療にも対応できる「地域密着型病院」と、救急や手術に対応する「急性期拠点病院」とに機能を集約することが望ましいのではないかと考える。
さらに、少子化が先行して進む中山間地域では、介護に関わる専門職の不足が重要な課題であり、近い将来、「地域包括ケアシステム」の維持にも支障をきたしかねない状況である。厚生労働省の「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」検討会の中間報告でも指摘されているように、介護保険サービス提供体制を維持するためには、専門職の配置基準などについて柔軟な対応が求められる。
中山間地域における医療や介護の近未来は、決して明るいものではない。2040年を待つまでもなく、今後の5年間でその先の医療・介護提供体制を議論し、前に進めていくべきである。「医療や介護を必要とする人々に、医療・介護を届け続ける」ことこそが必要であり、「保険あって医療・介護なし」という状態になってはならない。
小野 剛(市立大森病院院長、全国国民健康保険診療施設協議会会長)[高齢化][人口減少][担い手不足]