カート
会員登録
ログイン
大学病院の小児科医として勤務していた頃、病棟の共用スペースでテレビに釘付けになり、プロレスを繰り返し見ている男の子がいた。レスラーが登場するたびに目を輝かせ、入場曲に反応し、手を動かす。誰に言われずとも、彼がプロレスを好きだとわかった。彼は進行性の代謝疾患を抱えていた。今は自宅で暮らし、私は在宅医として関わり続けている。今では、以前のように話すことは難しくなった。
ある日、「プロレス会場に行ってみたい」と家族が話してくれた。だが当日、彼の体調が優れず会場の手前で断念。「行くのは無理かもしれない」と聞いたとき、私は胸が詰まった。そこで思いきってプロレス団体に電話をかけた。「力になりたい。でも本当に私たちでよいのでしょうか」と少し謙虚に添えられた言葉が印象的だった。そして、レスラーたちが彼の自宅を訪ねてくれた日、レスラーたちは面白く、堂々とした立ち居振る舞いで場を包み込んだ。