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【識者の眼】「オープンサイエンスを巡って⑨─儲けをさらに拡大する商業出版社」船守美穂

登録日: 2025.11.04 最終更新日: 2025.11.04

船守美穂 (国立情報学研究所情報社会相関研究系准教授、鹿児島大学附属図書館オープンサイエンス研究開発部門特任教授〔クロアポ〕)

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本連載では、値上がりし続ける学術雑誌の購読料への対策として、論文のオープンアクセス(OA)化が学術機関側から考案された経緯を紹介した(No.5219No.5229No.5238)。その後、特に重病患者など一般市民からの論文アクセス要求に押されるかたちで、公的資金による研究成果のOA化が研究助成機関によって制度化されてきた。論文のOA化は、高額な論文掲載料(APC)や論文の質の維持といった課題を抱えつつも、経済的に恵まれない国や機関の研究者、一般市民へのアクセス拡大、さらには研究の透明性向上にもつながる取り組みである。そのため、現在も世界的に推進されている。

一方で、商業出版社にとって論文のOA化の進展は由々しき事態である。デジタル時代になり、出版作業の手間が軽減されたとはいえ、一定のコストは依然として発生する。学術雑誌の購読料は、それを回収するための手段だった。しかし、論文がOAとなれば、購読料を支払う者がいなくなり、学術出版ビジネスが破綻してしまう。そのため、商業出版社は学術雑誌のOA化に長く反対していた。すべての掲載論文をOAとするOA誌は、ほぼすべて新規参入の機関などによって創設されてきた。

だが、論文のOA化を求める圧力はとどまることを知らない。何よりも、デジタル化の進展によって、情報をネットから無償で得ることが当然となった現代において、学術論文だけがOA化されていない状況は、もはや不自然といえる。

そこで、商業出版社は一計を案じた。学術雑誌そのものをOA誌にすれば、各国の購読機関から得ていた購読収入が消えてしまう。OA誌では購読料の代わりに著者からAPC収入が得られるが、権威ある学術雑誌の場合、購読機関の数に比べて著者数が圧倒的に少なく、採算が合わない。そのため、雑誌自体は購読型(非OA)のままとし、著者がAPCを支払った場合に限り、その論文のみOA化に応じるという方式を採用した。こうした雑誌は、「ハイブリッド誌」と呼ばれている。

困ったのは大学などの学術機関である。購読料を将来的にゼロにすることを視野に、論文のOA化を進めてきたにもかかわらず、結果として学術機関の経費負担は構造的に拡大してしまった。

どういうことかというと、ハイブリッド誌では論文単位でOA化が進んでも、雑誌内のすべての論文がOAになるわけではない。そのため、雑誌全体の購読契約は継続せざるをえない。一方で、研究者が自身の論文をOA化するためにAPCを負担することになり、OA化された論文に対しては、購読料とAPCの「両方」が支払われていることになる。

このような経費構造に対し、学術機関は「商業出版社による二重取り(ダブルディッピング)」と批判している。一方、商業出版社にとっては、廃業の危機を回避し、むしろ優勢に立った格好であろう。

このような学術機関の「敗北」の次に、今度は研究助成機関がこの問題に立ち向かう。果たして、その勝敗はどうなるのか。次稿以降で紹介していきたい。

船守美穂(国立情報学研究所情報社会相関研究系准教授、鹿児島大学附属図書館オープンサイエンス研究開発部門特任教授〔クロアポ〕)[論文のOA化][ハイブリッド誌論文掲載料

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