2025年9月26日、世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局(WPRO)は、日本が風疹の排除を達成した国であると正式に認定した。
風疹排除の定義は、①土着株による風疹ウイルスの感染伝播が12カ月以上認められないこと、②土着株による感染伝播によって先天性風疹症候群(congenital rubella syndrome:CRS)が発生していないこと、とされている。
また、認定の要件は、①36カ月以上にわたって土着株の感染伝播が認められないこと、②国内発生例および輸入例を適切に把握できる感度と特異度を持つ質の高いサーベイランス体制が存在すること、③「土着株の感染伝播」が断たれたことを示すウイルス遺伝子に基づく根拠があること、とされており、今回わが国は、これらすべての要件を満たしていることが確認されたことになる。
かつて風疹ワクチン接種の対象外であった1962年4月2日〜1979年4月1日生まれの男性を対象に、抗体検査および、抗体が不十分であった者に対する無料のワクチン接種(多くはMRワクチン)が実施された。いわゆる「第5期定期接種」である。この取り組みは、当該年代層における風疹発生を防ぎ、そこから妊婦への感染が波及するのを防止することを目的としたものである。
希望者の受診率が伸び悩んだという課題はあったものの、当該年代層の血清抗体保有率は上昇し、一定の効果が得られたと評価された。これについても、WPROから高く評価されたところである。この場を借りて、第5期定期接種に取り組んで頂いた関係者の皆様、ならびに検査や接種に応じて頂いた方々に対し、心より感謝の意を表したい。
風疹は、麻疹とは異なり、基本的には軽症で済む疾患である。しかし最大の問題は、先天性心疾患、難聴、視力障害など、生涯にわたる障害を引き起こすCRSが発生することであり、時にはせっかく授かった命が早期に奪われてしまうこともある。風疹対策の最大の目的は、このCRSを防ぐことにある。
私の手元には、1枚のコピーがある。そこには「お父さんと、お母さんと、私は、がんばりました」と、過去形で綴られている。18歳まで育ったCRSの子どもが亡くなる数時間前に両親へ渡した手紙であり、その親御さんから私がコピーを頂いたものである。国内におけるCRSの発生は、2021年第2週に報告された1例を最後に確認されておらず、それ以降、発生はみられていない。すなわち、国内からCRSの発生は消滅したと言える。
この成果は、医療機関、検査機関、研究機関、保健行政機関、教育機関、ワクチン製造・販売機関、報道機関、そして保護者をはじめとする一般市民の皆様など、多くの人々の力が集結した「all Japan」の取り組みによるものである。
しかし、これで「万歳!」と手を挙げて終わるわけにはいかない。今回の認定は、風疹排除という1つの通過点をクリアしたにすぎず、今後はこの状態を維持するために、不断の努力を継続していく必要がある。
特に懸念されるのは、ここ数年、1期(1歳時)および2期(小学校入学前の1年間)のMRワクチン接種率が、じわりと低下傾向にある点である。現時点では大きな問題は発生していないが、このまま接種率の低下が続けば、風疹のみならず麻疹の再流行は避けられない。実際、海外ではそのような国や地域が増加してきている。風疹ワクチン、そして麻疹ワクチン(MRワクチン)への取り組みにおいて、決して手を抜いてはならない。
岡部信彦(川崎市立多摩病院小児科)[風疹][先天性風疹症候群]