2025年10月21日、日本初の女性宰相として高市早苗氏が総理大臣に選任され、自由民主党と日本維新の会(以下、維新)による連立政権が発足した。筆者は政治の専門家ではないため、各種政策について論じることはしないが、社会保障政策となると当事者として強い関心を持たざるをえない。特に、これまで政権の一翼を担うことのなかった維新が政策立案に強い影響を及ぼすことは間違いなく、今後どのような変化が生じるのかが注目される。
維新のHPに掲載されている「社会保険料を下げる改革提言」には、その政策の詳細が示されている。「社会保険料を下げる」という表現は勤労世代に響くものであり、一見すると世代間の負担の不公平是正を主眼に置くように見える。しかし、その内実は、公的保険がカバーする医療費の抑制に重点を置く内容のようである。ただ、物価高と人件費増大がもたらす医療機関の経営状態の悪化をどう克服するかが大きな問題となっている現状では、こうした政策はまさに真逆の影響を及ぼすように思える。
各政策を見ていくと、「OTC類似薬の保険給付のあり方の見直し」「低価値医療の保険適用見直し」、さらには「感冒様症状の検査及び予防接種に関するアクセス向上(医療機関外での検査や投薬の推進)」といった施策が並ぶ。いずれも、「よくある症状や軽症疾患では保険医療の資源を使わないようにする」という一貫したコンセプトが見て取れる。ただ、上気道感染や予防接種の患者の来院が激減した場合、内科・小児科・耳鼻咽喉科などの診療所の経営面での打撃はかなり大きいと予想される。最近、地方でも個人立の診療所の閉院が増えていることを実感しているが、さらにそこに拍車をかけることは間違いない。
その一方で、政策の中には、医療の費用対効果の評価、ポリファーマシーの防止、医療フォーミュラリの活用、包括払いの導入といった医療の効率性を高めていくテーマもあり、電子カルテの標準化、デジタル予防医療の推進、オンライン診療の推進といったデジタル化を推進する未来志向のテーマも含まれている。こうしたテーマがよい形で展開したら、現場の我々にもメリットがあるかもしれない。
はたして、こうした維新の政策が従来からの政府の医療政策にどう影響していくのか。見逃せない1年になりそうだ。
草場鉄周(日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)[総合診療/家庭医療]