診療報酬改定DXは、医療DXの取り組みの中でも比較的早い段階でスタートしました。2024年の診療報酬改定の施行時期が2024年6月に後ろ倒しになったことは、記憶に新しいかと思います。これは、改定時に必要となるソフトウェアの改修等に伴い、ベンダーや医療機関等にかかる業務負荷を軽減することが目的でした。
ベンダーや医療機関等では、改定に関する告示が3月上旬に公表された後、4月1日の改定施行日までに新しい患者負担金の計算方法に対応しておく必要があります。さらに、5月初旬までには改定後初回のレセプト請求にも対応しなければなりません。その間もその後も、疑義解釈や変更通知が随時発出され、継続的な対応が求められます。
日本の保険医療制度では、診療報酬改定の時期に上記のような大規模な作業の集中が毎回発生しており、レセプトコンピュータ(以下、レセコン)メーカーは、2年に1度の改定に備え、専門知識を有する人材を継続的に確保しておく必要がありました。診療報酬改定DXでは、デジタル人材の有効活用やシステム費用の低減等の観点から、診療報酬やその改定に関わる業務をデジタル技術の活用によって大幅に効率化し、医療保険制度全体の運営コストの削減につなげることが目標とされています。
具体的には、診療報酬の算定や患者の窓口負担金計算を行うため、全国統一の共通電子計算プログラム(以下、共通算定モジュール)を支払基金が運用し、医療機関はレセコンを通じてこのモジュールに計算要求を行うという仕組みです。医療機関のレセコンがこの共通算定モジュールを部品として組み込むことで、プログラムの計算機能の更新などが不要となり、システム運用費用の縮減につながることが期待されています。医療機関と支払基金は基本的にクラウドを介して連携することを前提としていますが、レセコンがオンプレミス(院内設置型)の場合も、運用方法が検討される予定です。
ここまで述べた共通算定モジュールには、レセプトを作成する機能は含まれていません。そこで、追加機能として、レセプトの作成・提出を可能とする「請求支援機能」の実装も進められています。共通算定モジュールは2025年6月の運用開始をめざしており、請求支援機能は2027年頃の完成を予定しています。
この共通算定モジュールや請求支援機能が電子カルテから利用できるようになれば、「医療機関でレセコンが不要になるのではないか」という見方もあります。しかし、共通算定モジュールはレセコンの代わりにはなりません。労災・自賠責や自費診療の計算、加算の取り漏れを防ぐ自動算定や入力支援、収納管理、帳票出力など、レセコン自体が果たす役割は多岐にわたり、引き続き必要とされます。
また、窓口負担金の計算やレセプト作成を複雑にしている要因のひとつに、医療費助成事業(地方単独公費)があります。これは全国の市区町村がそれぞれの事業ごとに独自にルールを設けているため、バリエーションが多く、保険請求システムのコストに影響してきました。さらに、制度の管轄が複数の省庁にまたがっていることもあり、統一的な整備も進みにくい状況でした。今回の共通算定モジュールの取り組みの中では、支払基金による一元的な管理の仕組みの構築がめざされています。
次稿は、セキュリティを中心にした話題をお届けしたいと思います。
上野智明(日本医師会ORCA管理機構株式会社取締役副社長)[医療DX][診療報酬改定]