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高市自民党総裁の医療公約をどう読み、高市自維連立政権の医療政策をどう見通すか?[深層を読む・真相を解く(160)]

登録日: 2025.10.22 最終更新日: 2025.10.23

二木 立 (日本福祉大学名誉教授)

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2025年9月7日の石破茂首相の退陣表明後、政局は二転三転しました。10月4日の自由民主党(以下、自民党)総裁選で、小泉進次郎候補有利との大方の予想を覆し、高市早苗候補が当選しました。しかし、10月10日に公明党の斉藤鉄夫代表が、「政治とカネ」を巡る問題への自民党の対応を批判して、自公連立政権からの離脱を表明し、高市首相誕生が不透明になりました。その後、10月15日の自民党・日本維新の会(以下、維新)の党首会談で両党が連立を視野に入れた政策協議を開始することで合意し、10月21日の臨時国会で高市氏が首相に選出され、自維連立政権(維新は閣外協力)が成立しました。

私は、総裁選の5候補の公約を読み比べ、医療・介護については(限定しては)、高市候補の公約が最も積極的・現実的であり、高市自公連立政権の医療政策に多少の期待を持ちました。しかし、自維連立政権が誕生したことで、今後の医療政策は不透明になったと感じています。本稿では、高市氏の総裁選での医療についての公約と、高市自維連立政権で予想される医療政策を区別して検討します。

2024年までは医療政策にはほとんど触れず

その前に、高市氏は2024年の前回総裁選までは、医療(政策)についてほとんど触れていなかったことを指摘します。私は、本稿執筆のため、2021~24年に高市氏が出版した5冊の著書(編著と『月刊Hanada』編集長の編著を含む)と、2024年総裁選公約を読み、このことを発見しました。

最初の著作『美しく、強く、成長する国へ。』(WAC、2021年)には、5冊中唯一、医療(政策)に関わる記述が、断片的にかなり含まれていました。ただし、「医療提供体制と検疫の強化」(27頁)は感染症対策、「創薬力の強化」(43頁)は専門家へのヒアリングのまとめ、「医療分野における脅威」(130頁)はサイバーセキュリティ対策でした。「医療機関の電波環境の改善」(169頁)は実母が一時、心停止に陥った後の経験を契機にして対策強化に奮闘した記録で、迫力がありました。しかし本書には、医療(保険・提供)政策全体についての記述はありませんでした。それに対して、介護(政策)についてはかなり触れており、これは、実母と夫の介護体験があるためと思います。

2024年総裁選時の公約「日本列島を、強く豊かに。」では「健康医療安全保障の構築」に触れていましたが、医療政策全体の記述はありませんでした。『高市早苗は天下を取りにいく わが政権構想 わが国家観』(飛鳥新社、2024年)は、同年9月の自民党総裁選に向けて、高市氏自身と高市氏応援団が大集合した本で、タカ派・強硬保守の「国家観」全開でしたが、医療・社会保障についての記述はありませんでした。

2025年には包括的・現実的医療公約

しかし、今回の総裁選公約には突然、包括的かつ現実的な医療政策が含まれました。公約は5つの柱で構成されており、第1の柱(Policy 01)には、以下のように書かれています。「●生活の安全保障=物価高から暮らしと職場を守る •全国の病院の7割が深刻な赤字で、介護の倒産が過去最多となる中、地域医療・福祉の持続・安定に向けて、物価高・賃上げを反映して診療・介護報酬の見直しを前倒しで行う必要があると考えます。•補正予算を措置して、深刻な危機的状況にある地域の医療福祉を、スピード感をもって守り抜いていきます。診療報酬については、過去2年分の賃上げ・物価上昇分を反映して前倒しで改定(本来は年末に改定・来年度初実施)、介護報酬についても、同様に前倒しで改定(本来は、2027年末改定)することも検討します」。「●健康医療安全保障の構築 •地域医療・福祉の持続・安定に向け、コスト高に応じた診療・介護報酬の見直しや人材育成支援を行います。(以下略)」。

高市氏は、総裁選中の討論会でも、診療報酬と介護報酬の引き上げを繰り返しました。私が1番注目したのは、共同通信の総裁候補への質問に対して、5候補中唯一、高額療養費制度の患者自己負担額引き上げに「反対」と明言したことです(10月3日)。

総裁選公約に書かれていない点にも注目

私は高市氏の総裁選公約の医療政策に書かれていない以下の諸点にも注目しました。

まず、維新・国民民主党・参政党(以下、3野党)が「(若年世代の)社会保険料引き下げ」を主張しているのと異なり、高市氏はそれを主張しなかったことです。公約では、「中低所得者層の負担(逆進性の高い社会保険料の負担増)を軽減」と書き、「負担増の軽減」との政府文書の伝統的表現を用い、低所得者層にも目配りしています。3野党と異なり、医療費の抑制(「適正化」)も書いていません。ただし、診療報酬・介護報酬の引き上げに必要な財源には触れていません。

3野党と異なり、OTC類似薬の保険外しにも触れていません。維新が主張している「市場原理の導入」(「政権公約2025基幹政策」)にも触れていません。

1番重要なことは、医療提供体制については全く書いていないことで、これは現在検討されている改革を踏襲することを意味します。

このように、高市氏の医療政策が突然充実・現実化したことは、高市氏に医療分野での有力・優秀なブレーンがいることを強く示唆しています。

以上から、私は、高市氏がタカ派・強硬保守であることと、高市氏の現在の医療・介護政策は区別する必要があり、高市自公連立政権の医療・介護政策は、石破内閣と大きくは変わらない、むしろ医療・介護施設の窮状対策には期待が持てると判断しました。

自維連立で医療政策の行方は不透明化

しかし、10月15日に維新が自民党との連携・連立に舵を切ったことにより、今後の医療政策は不透明になったとも考えました。というのは、維新の吉村洋文代表が、連立合意の「絶対条件は社会保障改革と副首都構想」と明言したからです。維新が掲げる「社会保障改革」は、「国民医療費の総額を、年間4兆円以上削減し、……現役世代1人当たりの社会保険料を年間6万円引き下げ」ること(「政権公約2025基幹政策」)を柱としており、高市氏の公約、特に診療報酬と介護報酬の引き上げとは水と油と言えます。

ただし、その後の自民党と維新の政策協議では、表向きはこのような違いは問題視されませんでした。というのは、両党は2025年2月25日と6月6・11日の、公明党を含んだ3回の「三党合意」で、維新の「試算」・主張を「念頭に置く」ことで、当面の社会保障改革について合意していたからです。

私が1番注目しているのは、2025年6月6日の合意で、医療法等改正の「本年における成立に限定して責任をもって努力する」と明記されていることです。言うまでもなく、現在、厚生労働省サイドで検討されている、2040年に向けての医療提供体制改革の法的根拠がこの法改正です。

それに対して、OTC類似薬の(部分的)保険外しや高齢者の3割自己負担の対象拡大、保険外併用療養費制度の対象拡大等は、石破内閣の「骨太方針2025」で想定されていた範囲を超えて拡大する可能性があります。どこまで拡大するかは、自民党と維新の力関係、及び他野党の対応によって変わります。2026年度診療報酬がプラス改定なのは確実ですが、医療団体が切望している大幅引き上げは難しいと思います。他面、維新が強く求めている社会保険料の大幅引き下げは、きわめて困難と言えます。

私は、2024年総選挙直後に発表した「医療・社会保障の選挙公約での与党と一部野党の『逆転現象』(『文化連情報』2024年12月号)」で、以下のように述べました。「今後、両党(維新と国民民主党)が医療・社会保障政策への関与を強めた場合には、この方向(後期高齢者の負担増や保険外併用療養費制度の拡大)が促進され、その結果、現役世代と高齢世代の『世代間対立』がさらに強まり、『社会保障の機能強化(充実)』のための財源確保がますます困難になる可能性があります」。自維連立政権の成立で、この懸念が現実化する危険が強まったと言えます。

日本福祉大学名誉教授・二木 立

にき りゅう:1947年生まれ。72年東京医歯大卒。日本福祉大学教授・学長などを経て2018年4月より現職。著書に『医療経済・政策学の探究』『病院の将来とかかりつけ医機能』(いずれも勁草書房)など


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