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【識者の眼】「ブラインドコードによる幼児窒息事故の現状と対策─身近な家庭環境に潜む『静かな危険』」坂本昌彦

登録日: 2025.10.23 最終更新日: 2025.11.26

坂本昌彦 (佐久総合病院・佐久医療センター小児科医長)

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幼児の安全確保は、すべての保護者にとって最も重要な課題である。しかし、日常生活の中には、見落とされがちな危険が数多く存在する。家庭内に設置されたブラインドコードが幼児の首に絡まり、窒息死に至る事故もそのひとつである。この種の事故は以前から報告されているが、近年においても散発的に発生している。

ブラインド関連の事故の特徴は「短時間かつ静かに発生する」点である。わずか数分の間に起こるため、保護者が近くにいても気づけないことがある。米国の調査では、コードによる首の圧迫からわずか15秒で意識を失い、2〜3分で命に関わる状況になると報告されている。このような事故は死亡率が非常に高く(米国のデータでは約7割)、家庭内傷害の中でも特に重篤な転帰をとる可能性が高い1)

米国消費者製品安全委員会(CPSC)の報告によると、1996〜2012年の間に発生したブラインドコードによる事故は231件にのぼり、そのうち67%が死亡例であった。また、事故例の86%が3歳以下の幼児で、特に1〜2歳児に集中していた1)。この年齢層で事故が多い理由としては、体重に占める頭の割合が大人より高い点、また、首の筋力がまだ十分に発達していないため、一度コードが絡むと自力で抜け出すことが難しい点が挙げられる。さらに、この年齢の子どもの気道は狭く、かつ柔らかいため、わずかな圧迫でも容易に呼吸停止に至ってしまう点も重要である。

日本でも同様の事例が報告されている。日本小児科学会の「傷害速報」によれば、2012〜20年の間に少なくとも4件のブラインドコードによる窒息死亡例が報告されており、消費者庁の資料でも2007〜13年の間に10件の事故が確認されている。ただし、日本ではこの種の傷害を包括的に把握するシステムが存在しないため、実際には報告されていない事故がさらに多く存在する可能性がある。

こうした事故を防ぐための環境整備として、①ブラインド付近に家具を置かない、②コードを床から1.6m以上の高さに固定する、③セーフティ・ジョイントやクリップを使ってコードのループを解消する、④可能であればコードレスタイプに交換する、などの対策が推奨されている。

欧米諸国では既に対策が進められている。カナダではコードの長さ制限や警告表示の義務化により、ブラインド関連の死亡率が半減したと報告されている。米国では2018年に改訂された安全基準が施行され、新製品のコードレス化、または子どもの手が届かない設計を義務づけている。さらに、CPSCは「#GoCordless」キャンペーンを展開し、社会全体への啓発活動を進めている。

一方で、日本における制度的対応は依然として不十分である。まずは、ブラインドコードの危険性について、社会的な認知を高めることが重要である。小児科医をはじめとする医療従事者は、乳幼児健診や外来診療の機会を通じて、そのリスクと対策について保護者へ積極的に啓発していく役割を担っている。

【文献】

1) Onders B, et al:Pediatrics. 2018;141(1):e20172359.

坂本昌彦(佐久総合病院・佐久医療センター小児科医長)[小児科][窒息事故]

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