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【識者の眼】「2025年10月施行の改正育児・介護休業法の影響」藤田哲朗

登録日: 2025.10.24 最終更新日: 2025.10.28

藤田哲朗 (医療法人社団藤聖会理事、富山西総合病院事務長,医療経営士1級)

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2025年10月に、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(以下、育児・介護休業法)の一部が改正・施行されました。今回の改正で最も大きなポイントは、「柔軟な働き方を実現するための措置」の導入です。

具体的には、3歳以上の未就学児を養育する従業員に対し、企業は5つの措置(①始業・就業時刻の変更、②月10日以上のテレワーク等、③保育施設の設置・運営その他これに準ずる便宜の供与、④育児と仕事の両立を支援する両立支援休暇制度の付与、⑤1日6時間の短時間勤務制度を含む措置)のうち2つ以上の措置を講じる義務があります(従業員は、企業が選択した措置の中から1つを選択)。

筆者自身も3人の子どもを育てており、朝夕の保育園や学童への送迎で毎日ヒーヒー言っている身なので、「勤務時間を短縮できたら・・・・・・」「テレワークができれば・・・・・・」という気持ちは痛いほどわかります。

とはいえ、超大企業のホワイトカラーならともかく、病院や入所型介護施設のようにいわゆるエッセンシャルワーカーを雇用し、シフト制で24時間体制を維持している企業では、今回の法改正に対応することはかなり苦慮したのではないでしょうか。たとえば、②のテレワークは、業務の大半が現場で完結する医療・介護業界では導入がきわめて困難です。また、⑤の短時間勤務制度も、2交代ないし3交代制の勤務体系と相性がよくありません。当院では子育て中の若手職員が多く、改正前は3歳未満の子を療養する者に限られていた育児短時間勤務制度を小学校就学前まで延長するとなると、人員が不足し、シフトが組めなくなるおそれがありました。③の保育施設の整備についても、福利厚生として新たに始めるには、施設の設置や人員配置の面でハードルが高いのが実情です。

そこで当院では、業務に支障が出ないギリギリのラインとして、①始業時刻の変更(最大30分の早出、遅出の設定)と、④両立支援休暇制度の付与、を法定の2措置として設定し、さらに従業員の希望をふまえた法定外の独自措置として、最大1時間(始業時30分、終業時30分)の短時間勤務制度を新たに導入しました。

また、これに合わせて、これまで社会保険上の扶養家族の子のみを対象にしていた扶養手当を、同居する未就学児全員に拡大しました。少額ではありますが、家事・育児のアウトソーシングの費用を一部補填するという意味合いがあります。

生産年齢人口が減少し、採用環境も厳しさを増す中、どの企業も従業員にはなるべく長く働いてほしいと願っているはずです。一方で、同業者間や業種間でも人材の奪い合いが発生しており、自社の都合を一方的に従業員に押しつけることは難しくなっています。かといって、従業員の要望をすべて受け入れていては、事業そのものが維持できなくなります。自社の事業特性をふまえて「どこまで従業員の希望に応えられるか」「離職防止策としてのコストパフォーマンスはどうか」といった点を見きわめながら、それぞれの組織が戦略的に労働環境・労働条件の整備を進めていく必要があります。

藤田哲朗(医療法人社団藤聖会理事、富山西総合病院事務長,医療経営士1級)[病院経営][育児休業法改正

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